口蹄疫に関する科学的情報

 話は口蹄疫へと変わる。日本語の良質な情報が少ないので数少ない情報源にリンクを張っておく。

日本獣医学会: 1997-1999年の日本周辺の口蹄疫の発生状況についてのまとめと、日本の執るべき口蹄疫対策について。

 興味深い表が示されているので引用する。

表2:台湾の口蹄疫による被害

1997年の直接的被害    Million US$
1. 殺処分豚の補償金 187.5 (403万頭) 37%
2. ワクチン(2100万ドーシス) 13.6
3. 死体処理および環境保護費 24.6
4. その他の諸経費 27.9
5. 市場価格の下落による損害 125.0 (初期の4ヶ月間)
______________________________________________
合計 US$378.6 million (約405億円

1997年の輸出停止による被害 US$1.6 billion

その他の間接的被害
失業者 65,000人
・飼料業者の損害
・獣医薬品業者の損害
・食肉加工業者の損害
・農耕作業用機械業者の損害
・輸送業者の損害等

被害合計 US$4 billion  (約4,000億円)

 今のところ、まだこのオーダーには達していないし、そうなる前に食い止めなくてはならない。
 このページには口蹄疫ウイルスO型株の病徴についての記載もある。

和牛だけを見ていると口蹄疫が見分けられず、見逃すか誤診をしてしまう可能性が高い。必ず近辺の 外来種の乳牛や山羊等に、異常がみられないか十分に調査する必要がある。

また、

この新種のO型ウイルス(O/Taiwan/99株)は在来種の黄牛には症状を示さず不顕性感染を起すが、 ホルスタイン種には口蹄疫の症状を示すことが、今年の1月に雲林省(Yunlin)の2農場でわかった。 その後の感染実験では豚にも感染することがわかっているが1997年の豚に親和性の強い O/Taiwan/97株とはVP-1の分子配列も病原性も異なることがわかった。

 つまり、ウイルス株と宿主の生物種(水牛/肉牛/乳牛/豚/イノシシ/山羊)の組み合わせによって、病徴の出方に相当の幅がある可能性があると考えた方がよい。

動物衛生研究所: かなり本格的なレビュー。科学的な情報に関心のある方にはおすすめ。風で60km以上も伝播する、不顕在感染する、ウイルスが 100日近く感染力を保つなど、論点は非常に多岐にわたるので3点だけ引用する。

まず、

牛,羊,山羊,水牛,シカなどの反芻獣では,感染耐過後またはワクチン接種後の感染で,免疫を獲得した状態でウイルスが食道や咽頭部位に長期間持続感染するキャリアー化の現象が認められる。牛ではキャリアー状態が感染後2.5 年間持続した例があり,キャリアー動物が感染源になった発生事例もみられている。このため臨床症状を示さないキャリアーの存在は口蹄疫の防疫上大きな障害になる

 今回最初に感染が確認された水牛は不顕在感染しやすいことが示されているし、日本の大動物専門の獣医は水牛を診るのに慣れていないはずだ。見落としを責めるべきではないだろう。

わが国では不測の事態に備えて近年の流行株の抗原性状を勘案してワクチンが備蓄されている。しかし,上述したように口蹄疫ワクチンは不活化ワクチンで,その効果は,例えば豚では豚コレラワクチンの様に優れたものではない。また,ワクチン製造に用いているウイルスの抗原性が,流行株と同一である確率は理論的には低く,著しく異なる場合には効果がないか,あっても弱いので感染を阻止できないという問題や,ワクチンによる免疫成立までに日数を要するなどの問題がある。さらに前述したように,免疫持続期間が比較的短いこと,幼獣の免疫応答が弱いこと,ワクチン接種後の抗原変異や移行抗体の問題など多くの問題もある。

 備蓄ワクチンの抗原が今回の流行株の型と合わなければワクチンは無意味。そして、

口蹄疫が侵入,蔓延して防疫に手間取るような最悪の事態を想定すれば,国内畜産業は多大の直接的な経済被害を受けるばかりでなく,現在制限されている地域の畜産物との内外価格差を考慮すると,わが国の畜産業全体が極めて厳しい立場におかれる恐れがある。ワクチンを使用しない完全な口蹄疫清浄国の立場を保つことが,国内畜産業の安定の前提になっている。従って,万一本病が発生した場合にも,被害を最小限にとどめ常在化させることのないよう,口蹄疫の病性を理解し迅速,的確な対応をとる必要がある

10年前のこの教訓は今回生かされただろうか?コメントは蛇足だろう。