「研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて」 と題して文部科学省が2006年7月23日締め切で意見募集をしている。

 以下私の見解。


 報告書案によれば、不正行為とは、1.研究活動の本質および2.研究成果の発表において、「その本質ないしは本来の趣旨を歪め、研究者コミュニティの正常な科学的コミュニケーションを妨げる行為」と定義している。具体的には「得られたデータや結果の捏造、改ざん、及び他者の研究成果等の盗用に加え、同じ研究成果の重複発表、論文著作者が適正に公表されない不適切なオーサーシップ」等をあげている。 また、不正行為にならない例として「科学的に適切な方法により正当に得られた研究成果が結果的に誤りであったとしても、 それは不正行為にはならない」としている。

 これを見ると、”科学的に不適切な方法により得られた実験結果に歪んだ解釈を施して、マスコミ等を通じて社会に流布することを目的として公表する行為”は次の点から「研究活動の不正行為」にはならないと考えられる。

  • 社会に広く誤解を与えることを狙った行為であっても「研究者コミュニティー」においては「正常な科学的コミュニケーションを妨げる」ことにはならない。つまり、荒唐無稽な実験結果の解釈であっても、まともな研究者は惑わされることは無いので、「正常な科学的コミュニケーションの妨げ」にはならない。
  • 同様に、実験の達成しようとする目的に照らして、不適切な実験設計・実験管理であったとしても、学会発表やWebでの公表、記者発表のようにピア・レビューを経ていない”言いっぱなし”の研究結果の発表は研究活動の不正とはいえない。なぜならば、得られたデータや結果の捏造、改ざん、及び他者の研究成果等の盗用に加え、同じ研究成果の重複発表、論文著作者が適正に公表されない不適切なオーサーシップ」のいずれにも該当しない。

 つまり、この報告書案に従えば、たとえ”社会に誤解を与えることを意図して”不適切な実験設計、不適切な実験管理を行い、ピア・レビューを経ずにいい加減な発表を行っても、「研究活動の不正行為」とはいえないことになる。

 報告書の基本的な考え方には、科学における不正行為は「科学の本質にはんするものであり、人々の科学への信頼を揺るがし、科学の発展を妨げ、冒涜するものであって許すことのできないもの」としている。この基本認識に鑑みれば、上記の”科学的に不適切な方法により得られた実験結果に歪んだ解釈を施して、マスコミ等を通じて社会に流布することを目的として公表する行為”もまた、科学における不正行為の一つとして認識されるべきものである。

  以上。

 とはいえ、学会発表の段階では、実験のプラン、方法、管理についてはピア・レビューされていないものが大半であろうし、発表者の”意図”で行為を禁止したり、裁いたりすることは普通はできないだろう。とはいえ、公費を投入した研究からPusztaiやErmacovaのようなのが出てきて野放しにされるのだけは耐え難い。

 まぁ、公的研究資金でそんなろくでもない研究をする輩が居るとは思わないけれども。