読売新聞より。この種の勘違いは朝日新聞の専売特許かと思っていたのに残念なことだ。

強力な磁気嵐、発生源は“イソギンチャク”

 太陽の表面で、イソギンチャクの触手のように磁力線を出している領域が、人工衛星や無線通信などに悪影響を及ぼす強い磁気嵐を引き起こすことを、京都大と国立天文台などのグループが突き止めた。

 磁気嵐の発生を予測する宇宙天気予報に役立つと期待される。米国の地球物理科学誌に21日、掲載された。

 太陽から噴き出した電離ガス(プラズマ)が地球に届き、磁場を大きく変動させるのが磁気嵐。プラズマが速いほど衝撃が大きく、強い磁気嵐を起こす。

 京大の柴田一成教授と同天文台の浅井歩助教らは、2005年8月に発生した強い磁気嵐を太陽探査機などのデータを基に追跡調査した。その結果、「アネモネ(イソギンチャクの英語略名)型活動領域」と呼ばれる直径約15万キロの部分から、通常の2、3倍にあたる秒速1200〜2400キロの猛烈なスピードでプラズマが噴き出していたことを確認。最大級の磁気嵐の原因になることがわかった。

(2009年2月22日04時02分  読売新聞)

私は天文学にはさして興味はないし、専門でもない。この記事の見出しに反応してしまったのだが、記事に登場する「アネモネ」はそもそもキンポウゲ科の植物の属の名称だ。

ちなみに太陽表面に見られるイソギンチャク状の活動領域は、斯界では"anemone ARs"と呼ばれているらしい。ちょっと調べると、古くは1993年ごろには柴田先生がこの呼称を国内の学会で使っていたことがわかる。少なくとも、「イソギンチャク」は今般の新発見ではない。

イソギンチャクは”Sea anemone”という。ヒトは新しいものに出会ったとき、自分とって親しみがあるものの名前をつけたがる。ヒトは、海中のイソギンチャクよりも前にアネモネに出会った。だから植物のアネモネを"Land anemone"(オカイソギンチャク?)とは呼ばない。

anemone ARsという現象そのものについての論文は、今回の報告の浅井先生の論文が昨年2月にThe Astrophysical Journal掲載されている(フリーアクセスなので、ご家庭でも読めます。読んでも正確には理解できないけど)。

Ayumi Asai et al., “Characteristics of Anemone Active Regions Appearing in Coronal Holes Observed with the Yohkoh Soft X‐Ray Telescope,” The Astrophysical Journal 673, no. 2 (February 1, 2008): 1188-1193, doi:10.1086/523842.   

結局、記事になった新規性のある部分は何なのか?他の新聞で確認できないか調べてみた。毎日新聞より。

巨大磁気嵐:原因解明 「コロナホール」爆発に由来−−京大など


 太陽を取り巻くコロナの中で活動度が低い領域「コロナホール」で起きる爆発が地球周辺で発生する巨大磁気嵐の原因の一つであることを、京都大や国立天文台野辺山太陽電波観測所(長野県)などのチームが突き止めた。巨大磁気嵐は航空管制や変電所の故障原因となるため発生を予測する「宇宙天気予報」に役立つと期待される。米地球物理学会の専門誌電子版に21日発表する。

 磁気嵐は太陽表面の爆発に伴うガスが地球に飛来して発生。観測所の浅井歩助教らは05年8月下旬の巨大磁気嵐に注目、どの爆発に由来するのか探った結果、2日前コロナホールで起きた2回の爆発が原因と判明。更にコロナホールを詳細に調べ内部の「アネモネ型活動領域」だけがコロナホールの外側と同様、活発に爆発していることが分かった。

 浅井助教は「コロナホールは小規模磁気嵐の発生源と考えられてきたが、宇宙天気予報をするうえで注目する必要がある」と話している。【朝日弘行】

なるほど。地球周辺の巨大な磁気嵐の原因は、コロナホール内部の「アネモネ型活動領域」と、コロナホールの外側の領域の爆発が原因で、これまでコロナホールは小規模磁気嵐の原因とのみとらえられてきたが、大規模な磁気嵐の原因にもなっていたのか。新発見は、これまでも見いだされていた「アネモネ型活動領域」も巨大な磁気嵐の発生源の一つであることがわかった、と言う点だろう。

しかし、巨大な磁気嵐の発生源が、「アネモネ型活動領域」だけだとは誰もいっていない。そう言う意味では、

強力な磁気嵐、発生源は“イソギンチャク”

・・・これはないだろう。

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