藤原先生の「国家の品格」のあとでこの本を読むと食べあわせが悪いような気もする。

 ともあれ。私は、内田先生のblogや新聞のコラムは時々読んでいるが、一冊の著書として作品を読むのはこれが初めて。
 他に著書も多々あろうに、この本から読んでしまうのは、たとえて言うならバド・パウエルのアルバムを通覧しようと思って、よりによってBlue pearlのaltanative takeから聴き始めるようなものだ。・・・たとえが悪くてすみません。
 もう少し一般的な言い方をすると、漱石全集を読もうと思って、いきなり未出版の草稿集から読み始めるようなものです。

 まだ、内田 樹先生の作品を読んでいない方に、私はこの本は薦めません。自由闊達な筆致と、少々苦しげな議論の収束のしかた(「・・・の話は長くなるので、また別の機会に」という調子で、落としどころを曖昧にしたまま、するりと逃げてしまう。)はblogの文章そのもの。
 今時はそんな達人の文章を、お金を払わなくても読めてしまいます。しかし、名手の文章を、同じお金を払ってどうせ読むならもっと理論構築のしっかりした文章を読みたいものです。(あ、この本がいい加減な書きぶりだと言っているわけではありません。念のため。)

 すでにこの著者の作品を多数読んでいる方には、この本はあえて説明するまでも無く、申し分の無いエンターテイメントです。
 心地よい音楽のように高速のテンポで展開する文章は、読者の期待通りに淀みなく語りかけます。私はツボにはまってしまって一人で笑ってしまいました。