先日(6/20)のことである。Biotechnology Japanに刺激的な見出しが躍った。見出しに曰く

”日本のトクホは“トリビア”とWHO報告、消化促進など“些細な”健康利益のヘルスクレームが多いと指摘”

おお、WHOがこんな刺激的なことを言うなんて、とおもって記事のヘッダを見ると、


ダニスコジャパン学術・技術担当最高顧問の浜野弘昭氏は2006年6月15日、「サプリ&機能性食品/アンチエイジング専門フォーラム」における「何かおかしい、日本の食品ヘルスクレーム制度」と題した講演で言及した。

つまり、ある講演会で演者が言った内容を、伝聞であると断らずにそのまま見出しに使ったものだ。本当にWHOがレポートにそんな言い回しをするものかと思っていたら、昨日(6/21)のBTJのメールマガジンでは、再度次のように書かれていた。


「WHO(世界保健機関)の報告で、日本のトクホ制度はトリビアといわれている」と、ダニスコジャパン学術・ 技術担当最高顧問の浜野弘昭氏は2006年6月15日、「サプリ&機能性食品/アンチエイジング専門フォーラム」における
「何かおかしい、日本の食品ヘルスクレーム制度」と題した講演で言及しました。

 この専門フォーラムは、6月15日から17日に東京・池袋サンシャインシティ文化会館で開かれた「第2回サプリ&機能性食品2006」「ヘルスケア&アンチエイジング2006」(主催:日経BP社)に併せて開催されたものです。

 浜野さんは、国連のFAO(国際食糧農業機関)とWHO共同の食品規格計画であるCodex食品規格委員会に日本代表のオブザーバとして数多く出席し、日本で世界動向に最も詳しい方です。日本のヘルスクレーム制度をとりまとめるための委員会で中心的な役割を果たした論客でもあります。

 日本のトクホはトリビアというのは、「Nutrition labels and health claims:the global regulatory environment」という書名で04年に出版されたWHOの報告の中にある表現です。その日本語訳は「栄養表示と健康強調表示 世界的な制度の現状」という書名で、06年5月に日本健康・栄養食品協会が発行しました(頒布価格2100円)。「trivial」は「些細な」と翻訳されてます(P.97)。「trivial」はウェブの英和辞典では「つまらない, 取るに足らない」と出てきます。

「個別製品型強調表示は、公共の健康の利益になると証明されてはいない。例えば、特定保健用食品規制の下で、日本ではある報告によると、強調表示の90%以上は、消化促進のような『些細な』健康利益に関するものである。
より深刻な健康問題である高血圧は、強調表示のわずか1%でしかない」と記載されてます。

■詳しくは下記のBTJ記事をご覧ください。

2006-06-20

日本のトクホは“トリビア”とWHO報告、消化促進など“些細な”健康利益のヘルスクレームが多いと指摘


http://biotech.nikkeibp.co.jp/news/detail.jsp?newsid=SPC2006062039717


 

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記者は、バイオテクノロジージャパン編集長 河田孝雄とのこと。この記事でも、やはり「「個別製品型強調表示は、公共の健康の利益になると証明されてはいない。例えば、特定保健用食品規制の下で、日本ではある報告によると、強調表示の90%以上は、消化促進のような『些細な』健康利益に関するものである。より深刻な健康問題である高血圧は、強調表示のわずか1%でしかない」と記載されてます。」と、「記載されています」としており、出典であるWHOの報告書も明示されているので、河田氏もオリジナルの報告書を読んでいるように受け取れます。

 私も、その辺の書ぶりにそそられるものを感じたので、原典を読むことにしました。
原典では、次のように書かれていました。


• Have no proven public health benefits. For example, under the FOSHU regulations in Japan, a report found that over 90% of claims related to “trivial” health benefits such as aiding digestion. The more serious health issue of high blood pressure was subject to only 1% of claims;

たしかに・・・。が、この文は次の文の後に書かれている。


In Canada, a proposed regulatory framework allowing product-specific health claims was drawn up in 2001, with a view to publication the following year.280 Yet the framework was not published, and the health department decided to continue policy development on the issue.281 The framework was opposed by the Canadian-based Alliance for Food Label Reform, on the basis that product-specific claims:282

つまり、日本同様、製品別に効能表示を認めるという制度設計をカナダ政府が行なっている途上で、”Canadian-based Alliance for Food Label Reform”が反対の意思表示をするために書かれた引用文献282の内容として引用しているものである。そこで、文献282を参照すると、次の文書が出典であることが分かる。


282. Letter from Alliance for Food Label reform to Nutrition Evaluation Division, Health Canada (March 28, 2002).

Ottawa, Alliance for Food Label Reform, 2002 (www.cspinet.org/canada/ltr_032802.html,. accessed 5 January 2004).

興味のある方は、このURLを見ていただきたい。
WHOの報告書は、引用であると前置きをした上で、これをそのまま引用しているに過ぎない。つまり、WHOは報告書の内容としては「日本のトクホの表示制度ような、個別製品の表示許可には"trivial"なものを生む欠点がある、とする主張もある」というものであって、決して「WHOの報告で、日本のトクホ制度はトリビアといわれている」訳ではない。
私は別に厚生労働省の肩を持つ気も、既存のトクホ製品を持ち上げる気も無いが、このBiotechnology Japanの要約はひどすぎる。

メールマガジンでは河田氏は報告書を読んだかのような書きぶりであったが(少なくとも、私はそう感じた)、本当に読んだのだろうか?読み違いならば仕方が無いが、原典も読まずに「日本のトクホはトリビア」と言い切ったのであれば、その姿勢はプロとして問題がある。