Google Newsで「研究費不正受給」を検索すると、このところ早稲田大学の松本和子教授のニュースが山ほどヒットする。

 だが、この問題の捉え方は、どこかおかしくないだろうか?国から配分された研究費を予算申請の研究期間内に使用しきらずに、個人の投資信託で運用していたと言うことに問題があるのは論を待たない。研究予算の使い方としては至って不適切である。・・・ではあるが、問題の本質は「不正受給」では無いと私は思う。

 問題のあった競争的資金はJSTの配分する科学技術振興調整費である(が、配分された時点ではまだ文部科学省の直轄事業だったかもしれない)。ともかく、競争的資金は研究者の提出した研究計画を国が審査して、予算を配分することが妥当と認められる場合に研究資金を提供する仕組みだ。従って、最初から研究者の申請内容と研究計画そのものに、資金の提供元である国を欺く意図が込められているものであれば、「不正受給」になるが、経費の執行を意図的に計画通り行わなかったこと自体は、「不正使用」ではあるが申請プロセス自体に不正行為が無いのであれば、「不正受給」とは言えない。

 今回の事件が、もしも不正受給であるならば、国は松本教授を詐欺罪で告発するべきである。また、今回の件に絡んで、財務省は今年度の科学技術振興調整費で新規に採択された申請に対する予算の算定基礎の洗い直しを指示したらしい。
おかげで106億円の研究費の執行が滞っているが、この指示は果たして本当に意味があるのか?
研究途上で得られた新しい知見に基づいて研究計画を途中で変更することは良くあることだ。スポンサーに対してきちんと理由を説明して、正規の事務手続きを執れば、大抵のことは何とかなる(何とかならないとしたら、役所の事務担当者が上司に説明する能力が無いか、説明する気が無いだけの話だ)。最初から数年先を見通した精密な予算要求は原理的に不可能だ。先のことが全て正確に予想できるのであれば、
その事業はもはや研究ではない。判らないことに挑むから研究なのだ。だから、大づかみの資金計画を申請することはできても、研究初年度の時点で役所から「この人件費は本当に必要か?」とか「この設備費は適正か?」などと詰められても、研究者がほとんど答えられないはずである。

 ・・・ 文科省のまともな担当官は、そんなことは先刻承知の上で財務省の再調査の要求に応えているのだろうが、全くもってご苦労なことである。

 ことの本質が「不正受給」でなく「不正使用」であるなら、対応策は「事前チェックの強化」ではなく「事後評価と監査」のはずだ。
今後、予算要求時点で機関としての評価・監査体制まで採択基準に勘案するシステムにするというのでなければ、付け焼刃で事前チェックを強化したところで何にもならないだろう。