品種名をブランドにするべきではない?

昨日の朝日新聞のニュースから


コシヒカリに2品種 新潟県知事が「情報開示を」

と批判

2007年12月05日02時11分

 新潟コシヒカリが05年からほぼ全面的に新品種に切り替わっているのに、JAなどが従来のままの
コシヒカリ」銘柄で販売し、2品種の「コシヒカリ」が流通していることについて、泉田裕彦・県知事は4日、
「消費者の信頼を獲得するため、なるべく情報を開示する方向でやったほうがいい」と従来品種と区別して表示・
販売すべきだとの考えを示した。


 新品種「コシヒカリBL」は、病害に弱い従来コシヒカリの欠点を克服しようと新潟県が15年かけて開発した。消費者側からは
「味が変わった」などの意見も出ていた。


 知事は先月30日の県議会の委員会でも、「在来品種と新品種の違いを分からないようにして売ってしまおうという戦略。『情報隠し』だ」
と言及。食品表示に対する消費者の目が厳しくなる中、新潟県産米のブランドイメージの下落を食い止めたい狙いがあるものとみられる。

だいたい、コメの”銘柄”って一体何なんだ?ほかの作物とどう違うのか?というと、ちゃんと法的な根拠がある。

農産物検査法(生産→小売)とJAS法(小売→消費者)
がそれにあたる。が、なんか変なんだよね。農産物検査法ってのは、
基本的には米・麦しか相手にしていない。昔の食管制度の名残だ。他の農産物には、品種=銘柄(あるいは商標)でないものも沢山ある。

あなたは品種名で販売されている野菜を幾つしているだろうか?トマトの桃太郎?でも”桃太郎”
には幾つもの品種のシリーズがあって店頭で売っている桃太郎はおそらくは単一品種ではない。大根は、キャベツは、小松菜は?
すべて品種があるがその名前が前面に出て取引されることはない。

果物は?フジ、スターキングなどリンゴや、ラ・フランス豊水などナシ、デコポン
清見など柑橘類など日本で育種されたものは品種名で取引されることが多い。しかし、メロン、スイカ、バナナ、
パイナップルなど品種名が前面に出てこないものも数多ある。

品種名がブランドになっている農産物は、その品種名を名乗ることで他のものと差別化できる農産物に限られる。
一方、米は?というと他の農産物とは若干様子が違う点がある。店頭で売られているコメの多くは”精米”という製品だ。
玄米を原材料として製造された加工品である点は、野菜や果物とは違っている。

製品が原材料の品種名や産地をブランドにできたのは、製品の品質が概ね品種や産地で決まっていたからだろう。
しかし、昨今のコメ(精米)という製品はどうだろうか?「新潟コシヒカリ」と言う製品のブランドを、従来型品種の「コシヒカリ
や新型品種の「コシヒカリBL」が分かち合うのが、そんなに問題だろうか?準同質遺伝子系統の間の遺伝的な違いは、
他の品種の混米や品種偽装の問題とは比較にならないほどわずかだ。食味が変わったという消費者も居るかもしれないが、
同じ水田で比較栽培をして食味の違いを検定したわけでもないのなら”品種固有の食味”など分かるはずがない。むしろ、遺伝的な違いよりも、
年次や栽培の仕方、気象条件などの環境要因の方が食味には大きく影響しているはずだ。だからこそ、コメの銘柄に産地が謳われるのだ。

多様な環境で栽培された「コシヒカリBL」の混合物である「新潟コシヒカリ」を、
従来のコシヒカリ特別しないことを「情報かくし」というならば、
微妙な遺伝的な違いよりも品質に大きく影響する栽培地域を表示しないことの方がより大きな「情報かくし」ではないだろうか?

#もっとも表示してもらっても私には違いが分からないが。

ともあれ、「コシヒカリBL」を開発した技術者達の名誉のために、これだけは言っておきたい。私は、
新潟県知事とは別の視点から「コシヒカリBL」を、従来のコシヒカリとは区別するべきだと考えている。
新潟県の技術者が従来の品種よりも優れたものを作っておきながら、売る側が「新潟コシヒカリ
というブランドの影に隠して売らなければならないのだとしたら、それはマーケティング戦略の大きな間違いだ。

コシヒカリBL」は、単にイモチ病に強いと言うだけではない。イモチ病の防除に気を使わなくて良くなった分、
他の品質管理についてはこれまでのコシヒカリ以上に手をかけられるようになったのだから、トータルではもっと美味く作れるはずなのだ。
もしも、品種名をブランドにするならば、そこまでやっては如何か。

もっとも、新潟コシヒカリの値崩れをコシヒカリBLのせいにしているのであれば、
お門違いの八つ当たりもいいところだと思うが。

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