C型肝炎の患者は推定100-300万人居る

厚労省事務次官ともあろう方が何という発言を・・・
   


 

薬害肝炎「発生責任」、厚労次官が否定的見解 (読売新聞)

 
 
 

   

 薬害C型肝炎訴訟で、議員立法による全員一律救済法案に盛り込むよう原告側が求めている国の「発生責任」について、
    厚生労働省の江利川毅・事務次官は27日、定例の記者会見で「医薬品はそもそも効果と副作用を併せ持つものだが、『発生責任』
    を認めれば、副作用のある薬は承認できなくなる。実態をふまえた責任論が展開されることを期待する」と述べ、否定的な見解を示した。
   

   

 薬害肝炎に関する「国の責任」の表現を巡っては、政府・与党内で、「解決を遅らせた責任」といった「結果責任
    のみ認める案が当初、浮上していた。これに対し、原告側が「薬害を発生させた責任」を認めることを求めている。

 
 

    [ 2007年12月27日21時11分 ]
 

  医薬品の「副作用」(adverse reaction)というのは、
  WHOの定義によれば「医薬品の有害作用とは医薬品が通常の治療や予防に用いられる用量で引き起こす、有害で、望まれない反応」、
  独立行政法人医薬品医療機器総合機構法第四条第六項では、
   “「医薬品の副作用」とは、
  許可医薬品が適正な使用目的に従い適正に使用された場合においてもその許可医薬品により人に発現する有害な反応をいう”と定義している。
 

 

  だが、生物製剤による感染症は”副作用”なのか?それは、違うんじゃないの?というのが
  「事務次官ともあろう方が何という発言を・・・」の、意味するところです。医薬品の成分本質の多面的作用である”副作用”と、
  製造工程で管理しきれなかった感染性微生物等による感染では、未然防止の可能性がそもそも全然違います。
 

 

  さて、”発生責任”とは”薬害の発生を未然に防止する責任”と解釈すると、
  次官発言も理解できる。治験や市販化後の追跡調査の範囲で予測できない被害については、科学的な予測が成り立たないためだ。しかし、
  そのための補償制度は既にあるので、次官発言はこの文脈ではないだろう。


  一方、”結果として発生したことに対する責任”
  についての発言と解釈すると、国は薬害に対する結果責任は今後とも負わないと言っているに等しい。これは、おかしい。
 


  科学は万能ではない。
  医薬品の製造販売許可はその時々の科学的な水準に照らして最良の知見を持って、リスク・ベネフィットを比較して、
  その医薬品の効果が副作用を上回るようであれば合理的な根拠に従って許可してきたし、今後もそうあるべきだ。
 


  しかし、ある医薬品に対して国の製造販売許可が降りた後で、
  予測に反してあらたに有害事象(副作用・感染症)が発生した場合は、行政上の過失がないにもかかわらず、”薬害”が発生することになる。
   治験に参加する被験者は数年間で数千人程度。一方、市販化後の医薬品は10年以上(場合によっては数十年)、数万人に対して、
  様々な状況下で処方されることになる。有害事象の発生するケース(統計学で言う期待値)は市販化後の方が遙かに高くなる。
 


  この場合、手続きに瑕疵がないのであれば、許可を出した国には未然防止する”発生責任”
  は無いが、薬害という結果に対して、何ら過失のない被害者を”救済”(補償ではない)するべきだろう。

 

  そのためには、
     

  •    

          「副作用・感染症報告」制度の見直し:現行制度は2003年以降、
          医療機関から厚労省に直接報告する事を義務づけているが、きちんと機能しているか?

       
     
  •  

  •    

          無過失の薬害に対する救済制度:医薬品医療機器総合機構医薬品副作用被害救済業務
          (生物由来製品感染等被害救済制度など)として実施しているが、今回のC型肝炎が対象にならなかった(?)
          ので訴訟に発展したのはなぜ?

       
     
  •  

  •    

          投薬・治療履歴の長期保存、共有化:制度上、証拠を保全するべき。
          電子カルテ化は進んでいるが、病院間で共有できる所までは来ていない。

       
     

など、見直すべき点が多いように思う。

さて、上で引用した医薬品副作用被害救済業務のページでは、
医薬品副作用被害救済制度とは別に生物由来製品感染等被害救済制度(上で述べた、補償制度)
の救済給付の対象にならないケースが示されている。

     
  1. 法定予防接種を受けたことによるものである場合(別の公的救済制度があります)。
       任意に予防接種を受けた場合は対象となります。
  2.  
  3. 医薬品・生物由来製品の製造販売業者などの損害賠償責任が明らかな場合。
  4.  
  5. 救命のためにやむを得ず通常の使用量を超えて医薬品を使用し、健康被害の発生があらかじめ認識されていたなどの場合。
     
  6.  
  7. 医薬品の副作用、生物由来製品を介する感染などにおいて、その健康被害が軽度な場合や請求期限が経過した場合。
  8.  
  9. 医薬品・生物由来製品を適正に使用していなかった場合。
  10.  
  11. 対象除外医薬品による健康被害の場合(医薬品副作用被害救済制度のみ)。

・・・
生物由来製品感染等被害救済制度と、医薬品副作用被害救済制度が別になってるということは、制度設計を行った厚生労働省としても、
生物製剤による感染症は医薬品の副作用とは考えていないのでは?となると、事務次官発言は視点がずれている。

今回の薬害C型肝炎訴訟の場合は、上記のどれかに該当しているのだろうか?その点も報道を見てもわからない。しかし、
フィブリノゲンが適応症例(低フィブリノゲン血症)以外でも止血剤として広く使われてきた事を考えると、上記の5.に該当する可能性がある。
・・・であるとすると今回訴訟になっている薬害を起こした結果責任は病院にもあるのではないか?
一方で止血剤を投与しなければ、その時点で患者は死んでいたかもしれないという事実はあるにせよ。

ところで、朝日新聞に投与履歴が証明できない50代の匿名のC型肝炎被害者の次のようなインタビューが載っていた。


 

「投与が証明できなければ救われないなんて悔しい。ただ死を待つしかないんでしょうか」

この患者さんは肝硬変まで進行しているとのこと。あまり報道されていないが、
ウイルス性肝炎のインターフェロン治療に対する治療費の一部助成は、来年度からスタートすることが既に決まっている。
これは対象は薬害の被害者に限定されていない。しかし、肝硬変の場合はインターフェロン治療の効果はあまり期待できない。

失礼を承知で書かせていただくと、投与が証明されたとしても状況は何も変わらない。代償期であればまだしも、
非代償期の肝硬変は今の医療では治せない。投与証明の有無で違うのは、金銭的な補償があるかないかであって、救われるか否かではない。
肝硬変の患者が救われるためには、培養自己肝細胞移植ができるようになる等、治療技術の革新が必要だ。
既に肝硬変になってしまった患者さんが待つものは、死ではなく、新しい治療法の開発だ。

薬害C型肝炎の患者は1万人以上と言われているが、C型肝炎の患者は100-300万人居ると言われている。
目先の政府の責任追及にコストを掛けるべきか、肝炎の段階で一刻も早くインターフェロン治療を受けられるようコストを掛けるべきか、
あるいは肝硬変・肝癌の治療法開発にコストを掛けるべきか。どれを優先するかは行政だけでなく、政治家も、
訴訟を継続してきた患者団体自身も考えなくてはならない。

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