「毒性」と言う言葉は、毒性物質の量を意味しない。

朝日新聞より。


メタミドホス急性毒性基準、大人0.15ミリグラムに

2008年02月27日18時38分


 中国製冷凍ギョーザに混入した有機リン系農薬成分「メタミドホス」の毒性について、食品安全委員会の農薬専門調査会幹事会
(座長、鈴木勝士・日本獣医生命科学大学獣医学部教授)は27日、人が一度に摂取すると健康に被害が及ぶレベル(急性毒性)を、
大人で0.15ミリグラムになる数値に決めた。

 千葉市の母子が食べて中毒を起こしたギョーザには1個当たり約1.8ミリグラムのメタミドホスが入っていたとされ、
体重50キロの大人で12倍、15キロの幼児にとって40倍の毒性があった計算だ。

 幹事会は、農薬の専門家10人が議論。
国際機関などよりも人体への毒性作用を厳しくみている米国の環境保護庁の評価にならい、体重1キロ当たり0.
003ミリグラムが妥当とした。

 慢性毒性に対する1日摂取許容量についても、幹事会はこの日、国際機関よりも毒性を厳しくみて0.
0006ミリグラムと決めた。この評価への国民の意見を聴いたうえで、食品安全委から厚生労働省に通知。
同省は食材ごとの安全な残留農薬濃度を決める。

 食品安全委が農薬の「急性毒性」を評価するのはメタミドホスが初めて。これまでは約100の農薬の危険性について、
生涯摂取し続けると健康に問題が生じる「慢性毒性」を念頭に1日の摂取許容量を設定していた。

食品安全委員会からメタミドホスの評価が「農薬評価書」の形で出てくるかどうか知らないが、
もし農薬評価書として公表されるのであれば、記事にあるような「人が一度に摂取すると健康に被害が及ぶレベル(急性毒性)」
を決めることは無いはずだ。食品安全委員会で行う評価の目的は、
現在暫定基準で運用されている規制値に根拠を与えるための基準値作りなのだから。

「農薬評価書」では亜慢性毒性試験の無毒性量と安全係数、それで除した1日摂取許容量(ADI)、
それと急性毒性試験の無毒性量と安全係数、それで除した急性参照容量(ARfD)として公表されるはず。これらの規制値は、
「人が一度に摂取しても健康に被害が及ばないレベル」にあたる。記事で言うような、「人が一度に摂取すると健康に被害が及ぶレベル」
ではない。

ちょっとした違いのようにも見えるが、安全係数が100の場合は、
実験動物とヒトの種による毒性影響の違いではヒトが10倍敏感であるという仮定に、個人の遺伝的・
生理的な差によっては10倍くらいの開きがあるという仮定を合わせて、10x10=100という見込になっている。従って、
実施に健康被害が出る量と、健康被害を出さないための規制値では、毒物の量に2桁くらいの違いがある。

「ヒトであれば誰にでも必ず健康に被害が及ぶ」という毒物の量と、
「ヒトによっては健康に被害が及ぶケースもある」という毒物の量と、「ヒトに何らかの生理的な影響が及ぶが健康被害というほどではない」
という毒物の量は違うのだ。

記事の中では、しばしば毒性(生物に対する作用)と毒物の量(物質の質量)を混同している。



  • 1パラ目:「1日摂取基準」(量)と「急性毒性」(毒性物質の作用の現れる性質)を混同している。


  • 2パラ目:「体重50キロの大人で12倍、15キロの幼児にとって40倍の毒性があった計算だ。」ここも、
    毒性と毒物の量を混同している。

大丈夫か?朝日新聞。私も定期購読しているのだが、科学音痴な所を見せつけられると、
そのような理解力しかない企業にお金を払っていることが悲しくなる。

後で気づいたのだが、読売新聞も同じトピックの記事を書いている。


メタミドホスの摂取許容量を発表…内閣府食品安全委

 中国製冷凍ギョーザの中毒事件を受け、内閣府食品安全委員会の専門家による調査会は27日、被害を出した有機リン系殺虫剤
メタミドホス」の毒性分析から、1日に摂取できる許容量を発表した。

 それによると一度に摂取しても健康に影響のない許容量は「体重1キロ・グラムあたり1日0・003ミリ・グラム」。
体重50キロの人の場合、0・15ミリ・グラムとなる。一生摂取し続けても健康に影響が出ない許容量は「同0・0006ミリ・グラム」
とした。

 食品安全委員会ではこれまで、農薬を一度に摂取した場合の許容量を算出していなかったが、今回の事件を受け、
メタミドホスについて初めて設定した。

 慢性的に摂取した場合の許容量は、厚生労働省が見直しを急いでいる残留農薬基準の根拠になるもので、
同委員会は新年度早々にも厚労省に通知する。

(2008年2月27日22時03分  読売新聞)

こちらは、毒性に関する記事ではなく、”許容量”すなわち、悪影響が出ない量という扱いになっており、
正しい情報の扱いだ。この新聞社のオーナーが、”アレ”でなければ購読紙を替えたいくらいだ。

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