クリエイティブ・コモンズ・ライセンスによる分子生物学の資料

日本でも数年前から大学の先生の講義用のプレゼン資料がインターネット上で公開される様になってきている。たとえば、
こんなのや、

こんなの
(阪大の福井先生の講義資料です)。

オリジナルあるいは専門分野の教科書から引用した図やデータが随所に使われているが、
インターネットで公開すると著作権の侵害にあたる可能性が高いと判断されたものについては、たとえば特定の図を”Deleted
based on copyright concern.”として、白紙のページにしている場合がある。

このような資料の取扱方には2つほど問題がある。


1.オリジナルの資料に設定された著作権で許諾されている使用方法を使用者が知らない場合、ネット上での公開のみならず、
資料をコピーしたプリントを講義で使用すること(即ち、私的使用ではなく、業としての使用にあたる)自体、
著作権を侵害している可能性がある。

2.オリジナルの資料に設定された著作権で許諾されている使用方法を知らずに、
違法な使用を避けるためにネット上での公開を制限するあまり、最終的に公開された資料が情報に乏しくなって、
講義資料としての価値を失ってしまう可能性が高い。

私も、教科書と板書だけで講義が成立していたのどかな時代のことは知らない。その場合は二次的な複写物でなく、
教科書そのものを使用した講義なので著作権法上の問題は特に起こらない。しかし、
私が大学で講義を受けていた20年前(大学院生の頃は、講義と呼べるものは受けていなかったので学部生の頃) でさえ、教科書以外に教官が講義用の資料集をプリントしたものを配布していた。そこに印刷されていたものは、
本や論文の図表のコピーだった。仮に、著作権者の許諾を得ていない使用であった場合には、
それは著作権法違反であったことになる可能性が高い。

今日、Webで公開されている講義資料に、例えば”Deleted based on copyright concern.”
とある図の場合には(多分、講義資料として机上配布していないとは思うが)もし著作権者の許可を得ずにコピーをしてしまうと、
私的使用の範囲を超えた違法な複写になる。

最近、身近なケースでは、若手研究者が大先生のアバウトな依頼で教科書的なプレゼン資料を作らなくてはならないことがあった。近頃は、
助教(かつての助手)が講義を受け持つケースも増えてきて居ると聞く。いずれにしても、
研究のための貴重な時間を割いて講義資料も準備しなくてはいけない。

助教や若手研究者は自分で教科書を執筆しているケースは殆どないし、まあ、
若手でなくても教科書的な基本事項を教えるために自分の専門分野そのものではない分野の講義をしなくてはならないこともままある。
そうなると、資料のもとになる画像は何らかの形で他の方が作成したものを二次的に使用する事が多くなる。しかし、
安直に教科書をスキャナーで取り込んだり、Web上の画像をコピペしたパワーポイントファイルを使う訳にはいかない。

となると、著作権者の許諾をいちいち求めなくても利用できる便利な教科書的な図が無いものかと思う。


クリエイティブ・コモンズ
という考え方がある。著作権の利用範囲(利用許諾条項)に関する意思表示のあり方で、クリエイティブ・
コモンズ・パブリック・ライセンス(Creative Commons Public Licence)という形態の許諾方法(ライセンス)
が提唱されている。詳しくはこちら

実際に、クリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンスという「著作権の利用範囲(利用許諾条項)に関する意思表示のあり方」
のみを決めても、各国の著作権法(あるいはそれに相当する法律)との整合性がなければ、有効に機能しないので、
このようなNPOの存在自体は望ましいものだ。

しかし、
NPO法人がライセンスを提供するかの如きホームページであるが、本来の意味でのCreative Commons Public
Licenceは、「著作物の利用を許諾する際の基本的な考え方」と「著作物の定義と、具体的な許諾の範囲・方法」なので、
このホームページの”
クリエイティブ・コモンズは,
創造的な作品に柔軟な著作権を定義するライセンスを提供するNPO法人です.

という、一見、特定のNPOクリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンスを提供しているかのような言い回しは、
いささか不適切であろう。

自然科学は人類共有の普遍的な資産である。時間の淘汰をにさらされた科学的な知識は、いずれは常識に昇華する。
・・・かもしれない。そういう意味では、
自然科学の教育の場や科学的知識の市民への普及の場で用いられる教材には、著作権や所有権という考え方はなじまないように思う。むしろ、
教科書的に知識を伝える書物や資料にはオープンソースクリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンスの考え方がふさわしいように思う。

さて、実際にクリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンスに準拠した数学の教科書を公開しているボランティア団体がある。 ”
フリー教材開発コミュニティ エフテキスト”がそれだ。高校数学の教科書なので、
これを高校の授業に採用するのはちょっと教科書検定制度への挑戦の香りがするが、どうなんだろう(ちなみに、

大学の講義でつかう教科書については、学校教育法の定める教科書検定の対象ではない)。

明日から新年度。農林団地の桜も満開だ。

教官でもないのに、遺伝子組換え技術の基礎を講義しなくてはならない場面がまたやってくるのだろう。
こういうものが生物学分野でもできれば資料作成に便利なのになぁ、と思う今日この頃。

同じような立場の生物学分野の研究者がネット上で寄り集まって、生物学分野のクリエイティブ・コモンズ・パブリック・
ライセンスに準拠した教材が作れないものだろうか
。・・・こういう企画、科研費でどう?

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