組換え実験中止ですか

神戸大学が全学で遺伝子組換え実験を中止しているらしい。朝日新聞より。


神戸大、遺伝子組み換え実験を全学で停止

2008年04月12日


 神戸大大学院医学研究科(神戸市中央区)の久野(くの)高義教授(57)の研究室(分子薬理・薬理ゲノム学)が、
遺伝子組み換え実験に使った大腸菌などを未処理のまま廃棄していた問題を受け、同大学は学内すべての研究室などに対し、
遺伝子組み換え実験の停止を命じた。あわせて、実験に携わった研究者と学生らに廃棄方法などを尋ねるアンケートを配った。

 同大学によると、電子メールで11日、理学、農学、工学などの研究科と付属病院など12部門に通知した。
医学部では問題発覚直後から実験を自粛していたが、学内調査で久野教授と研究生らの証言に食い違いが出ていることなどから、
実態が解明されるまで全学レベルで実験を停止させることにした。
すでに遺伝子を組み換えたマウスなどの実験動物の飼育は認めるという。

 アンケートは遺伝子組み換え実験の期間や内容、廃棄方法など4項目を問うもので、署名と押印を求めている。
回答期限は16日午前10時。また同大学は11日夜、医学研究科棟周辺のマンホールを開けて下水を採取し、
久野教授の研究室の流しから廃棄された遺伝子組み換え大腸菌などが残留していないか調べている。

新年度早々、事件と直接関係のない部署にとっては大変な迷惑である。中には科研費が通ったという通知をもらって、
さぁやるぞ、と張り切ったところで腰砕けになってしまった方も居るに違いない。一部の不届きもののせいで迷惑を被るのでは、
全くもって気の毒としか言いようがない。

しかし、「遺伝子組み換え実験の期間や内容、廃棄方法など」の調査って言ってもね・・・
全学で行われている遺伝子組換え実験の種類は、事務方の想像を超えるものだろう。私の居る独法でも、課題数だけでも数百の実験が、
東京ドームの数倍のフロア面積の実験スペースで実施されいる。総合大学ともなると、もしかすると、もっと大規模化もしてない。
調査が終わってからの集計作業も相当大変なことになるのは間違いない。それまで実験中止ならば連休も返上で作業しても1ヶ月で済むかどうか。
事態の収拾は、どのくらいマンパワーを割けるかにかかっている。

廃棄の追跡については、ベクターをちょこっと改変するだけなので中間産物はとっておかない、
とかcDNAを発現ベクターに載せ換えるまでの増幅とか、ちょっと増やしておしまいという組換え大腸菌の廃棄まで入れると、
正確な記録に残っていない(実験ノートから推定するしかない)組換え大腸菌の廃棄も相当数あるはずだ。聞かれた方も、
どこまで回答したものかと迷うことだろう。

下水の大腸菌の分離まではやらないのでは、と思っていたが、やるんですね。
採ってきた下水の水を大型遠心機にかけてゴミを落として、高速遠心機でペレットして、生理食塩水で段階希釈して、
アンピシリン入りのLBプレートに撒くのでしょうか。標準的な検出法が確立されていないので、難しい問題です。

結局、最終的な判断は、単に何らかの組換え大腸菌が下水にいるかどうかではなく、
問題の研究室で作られた大腸菌がどのくらいの頻度で環境中に居るのか、と言う問題です。技術的には難しいのですが、
抗生物質なしの培地でのコントロールも取っておかないと。でないと、ものすごく高感度な検出法を使うと、環境中ではほぼゼロに近い、
なにがしかの組換え大腸菌を増幅してしまう事になります。
最後は久野研究室で使用していたクローンに特異的プライマーでコロニーPCRでもするのでしょうか。環境からDNAのPCRだと、
死滅した組換え生物由来のDNAまで検出されるので、高感度ではあるが信頼性は低いし。

不用意に環境中の大腸菌を増幅する実験をすると、
危険性から言えば組換え大腸菌どころではない病原性大腸菌を繁殖させることになりかねないので、要注意です。

 

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