”iPodに「著作権料」上乗せ 文化庁提案へ”という解せないニュース。

今朝の朝日新聞に掲載された以下の記事を三回読み直したが、さっぱり意味がわからない。耄碌したのだろうか。以下のエントリーでは、
copyrightの補償としての”私的録音録画補償金”というのが、そもそも正当なものかどうかについては議論しない。


iPodに「著作権料」上乗せ 文化庁提案へ

2008年05月06日03時04分


 iPodなどの携帯音楽プレーヤーと、テレビ番組を録画するハードディスク内蔵型レコーダーに「著作権料」
の一種を課金する制度改正の骨子案を文化庁がまとめた。8日の文化審議会に提案する。抵抗するメーカーに対し、
課金を求める著作権団体が「秘策」で揺さぶりもかける。同庁は4年越しの論議に決着をつけたい考えだ。

 著作権料の一種とは、一般の人が家庭で音楽や番組を録音・録画する行為に対して課金されている「私的録音録画補償金
のこと。すでにMDレコーダーやDVDレコーダーといった録音・録画機器には導入されている。
実質的にはメーカーが機器の売り上げから著作権者に支払っている。金額は価格の数%。

 最近登場した携帯音楽プレーヤーなどについては、著作権団体の要望を受け、文化庁文化審議会にはかり、
05年から本格議論してきた。
実演家著作隣接権センターなど著作権団体と反対するメーカーの両者の意見を折衷した制度改正の骨子案をまとめた。

 同案では、携帯音楽プレーヤーとハードディスク内蔵型録画機器を挙げて「課金対象にするべきだ」と初めて明言する。一方で、
メーカーに配慮して、録音・録画の機能がある機器でも、パソコンのような汎用性の高い機器や、
携帯電話のように別に主な機能がある機器への課金は見送ることにした。

 課金予定額は案には記さず、メーカーなどに配慮して慎重に決める姿勢を強調する。課金が決まった場合、
これまでと同程度かより低い率、金額では1台数百円前後、年間では計数十億円規模になると想定される。

 文化審議会私的録音録画小委員会の審議で、メーカー側委員は反対する公算が大きい。メーカーは、
課金で機器の値上げはしにくく負担が増えるとの思いがあるためだ。

 一方、著作権団体の「秘策」は、6月2日から導入する方針の「ダビング10」の拒否だ。
デジタル放送のテレビ番組を自宅のハードディスク内蔵型レコーダーなどに録画した後、DVDなどに9回複製できる新しい方式だ。

 著作権団体は導入の条件として補償金の賦課などを求めてきた。補償金を課せないなら、新方式に同意できないという考えで、
ニーズの高まる北京五輪までにメーカー側が受け入れを決断する、というシナリオに期待している。(赤田康和)

     ◇

 〈私的録音録画補償金〉 著作権法は、音楽やテレビ番組などについて、私的使用を目的とした家庭内での複製は認めている。
ただ、デジタル方式の機器は、高品質の録音録画や複製が可能で、著作権者が得られるはずの利益を損なうおそれがあるとして、
私的複製をする利用者に「補償金」の支払いを義務づけている。実際には個別の利用者から徴収できないため、
メーカーがまとめて補償金管理団体に支払っている。現在の年間の総額は30億円前後。

携帯音楽プレーヤーとハードディスク内蔵型録画機器の代金に、「著作権料」
の一種を課金する制度改正の骨子案を文化庁がまとめたのは、わかる。
ハードディスク内蔵型録画機器では高品質の録画ができるのでそちらもわかる。

しかし、その”著作権料の一種”にあたる課金の名目が「私的録音録画補償金
であるとするならば、”高品質の音楽を録音する機能のない携帯音楽プレーヤー”
の代表格であるiPODに課金すると言う理屈がさっぱりわからない。なんでそうなるのだ?

mp3ファイルの音源としてCDを使用しているのであれば、
すでにCDの代金として著作権料を払っているのではないか?デジタルオーディオの出現によって、
著作権による収入が減少しているという実態があるのだろうか?あるいは、レンタルCDからのリッピングが普及した結果、
CDの売上が落ちて著作権による収入が激減しているとでも?今や”商品としての音楽”の流通は、ネット配信が主体になりつつあり、
今後さらにその動きは加速するだろうからCDの売上減と言う現象に着目した施策であれば著しく的外れだ。また、ネット配信がCDの売上を後押しする現象も見られているらしい。

ネット配信の場合、長期的にはファイルの形式も現在のMP3等にこだわる必要はなく、
DRM著作権管理のしやすい、より高品質なフォーマットも現れるだろうから、著作権料のとりっぱぐれは無くなる傾向にあるはずだ
(合法的なコピーだけであれば)。また、配信実績が確実に把握できるので、
著作権管理事業者が著作権使用料を詳細に計算することが可能になっている。
非正規の輸入盤のような事は起こらないはずだ。

にもかかわらず、「私的録音録画補償金」を課金しようというのは何故なのだろう。iPOD等の利用者全てが、
私的複製の範囲を逸脱した違法なMP3を間違いなく利用する、と失礼千万な前提で考えているのだろうか?
現状で違法状態が一部であったとして、その放置を前提として、
違法な行為に荷担していない一般の消費者にまで負担を強いる施策を立案しているのであれば、行政官として間違っている。
有識者がなんと言おうが、違法状態を肯定し、現状を固定化させるのを行政が助けてはいけない。

著作権管理団体が圧力を掛けるとか、機器メーカは反対するだとか新聞で報じられているが、そんなものは関係ない。
その施策は原理的に正しいと胸を張って言えるのか?むろん、論理的に整合性があると言うだけで実効性のない施策には価値はない。しかし、
合理的な説明ができないことをしようとしてはいけない

一方で、こんな記事もあります。
一ヶ月前のIT media Newsの記事で”文化審議会著作権分科会の「私的録音録画小委員会」”に関するもので、”
コピーはDRMで管理、補償金縮小”という見出しです。この1ヶ月間に、
著作権団体側の圧力で当初目指していたところから原案が変容したというのだろうか。記事の信憑性は、専門分野に手厚いIT media
Newsの方が勝っているのだが。

Wikipediaによれば、「私的録音補償金は、著作権者の団体である日本音楽著作権協会
(JASRAC) に36%、実演家の団体である日本芸能実演家団体協議会に32%、レコード製作者の団体である日本レコード協会に32%の割合で分配される。
」とある。ネット配信が普及すると、音楽を視聴者に届ける上で”レコード製作者”は役割が縮小する
(プロデュースという業務は残るだろうが)。そもそもこの三者は、著作権者そのものではない。
著作権者としての音楽家に印税がきちんとはいるように管理する仲介者だ。その維持のためのオーバーヘッドが拡大し続けており、
その維持のための財源が私的録音補償金なのだろう。

JASRACは文化庁の天下り先だという話もある
で、文化庁の原案が当初の理想を離れて、著作権団体寄りに変わったのだとしたら何がそうさせたのだろうか?
ガソリン税と似たような構図がここにもあるような。

# この記事が朝日新聞チョンボであることを祈っております。

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