ビスフェノールAの安全性に懸念?

5/14 朝のNHKニュースより

プラスチックなどの原料として使われる「ビスフェノールA」という化学物質が、
  乳幼児に対しては現在の安全基準より少ない量でも生殖機能を乱す可能性があることを、厚生労働省の研究班が実験で確認し、基準の見直しが必要だと指摘しています。

ビスフェノールAは、体に入ると女性ホルモンに似た働きをする、いわゆる環境ホルモンとして知られていますが、微量の場合、人体にはほとんど影響がないとされていました。国立医薬品食品衛生研究所などの研究グループは、妊娠したねずみに、1日にとっても安全とされる基準の10分の1の量のビスフェノールAを与え、生まれてきた子どもの成長を観察しました。その結果、ねずみの子どもは当初、正常に成長しましたが、生後7か月目になって、発情期の間隔が乱れるなどの異常が見られたということです。厚生労働省によりますと、ビスフェノールAはプラスチック製のほ乳瓶の材料で、環境ホルモンが問題になった10年ほど前から国産のものにはあまり使われなくなりましたが、現在でも輸入品を中心に含まれているものがあるということです。実験を行った国立医薬品食品衛生研究所毒性部の菅野純部長は「乳幼児に対しては、かなり少ない量で影響が出る可能性のあることが確認できたので、現在の安全基準を見直す必要があるのでは」 と話しています。

なんだか混乱した報道です。

「微量の場合、人体にはほとんど影響がないとされていました。」

「ねずみの子どもは当初、正常に成長しましたが、生後7か月目になって、
  発情期の間隔が乱れるなどの異常が見られたということです。」

↓ 

「乳幼児に対しては、かなり少ない量で影響が出る可能性のあることが確認できたので、現在の安全基準を見直す必要があるのでは」

リスク・ベネフィットを秤にかけた予防的措置は行政的にはあって然るべきですが、科学者としては、まず、
通説と違う現象が観察されたら実験の再現性のトレースが先でしょう。科学的に確認できれば論文になります。
論文が批判に耐えられるものであれば、科学的事実になるでしょう。今のところ、「環境ホルモンの低用量効果」
については疑問視されているところですので、
毒性の専門家である国立医薬品食品衛生研究所毒性部の論文が出ればインパクトは小さくはないでしょう。展開に期待します。

しかし、実験結果では「生後7か月目になって、発情期の間隔が乱れるなどの異常」とのことですが、これをして、
「乳幼児に対しては、かなり少ない量で影響が出る可能性のあることが確認できた」と言う判断に結びつくのが私にはよく分かりません。

判断できない理由は次の通り。私は植物科学が専門分野ですので動物の種間の相対成長についてはほとんど知識がありません。ヒトの性的成熟がラットとはタイムコースが大きく異なります。7ヶ月齢のラットには発情期がある訳で、ヒトの生後7ヶ月の乳児とは相当に違います。つまり、ヒトの場合、乳から主たる栄養をとっていた期間から、
生殖線が機能し始めて繁殖可能になるまでの期間が非常に長いので、乳幼児期に摂取した物質の影響が長い成長期間を通じて残るかどうかはわかりません。

また、「発情期の間隔が乱れる」という現象が、即ち何らかのリスクを意味する、ということかどうかも。

一方、今日の日経Food Scienceの畝山さんの記事”「環境ホルモン」
問題はどうなった?ビスフェノールAの評価を巡る世界の動向「その1」”
が同じタイミングで出てきた。どうなってるのかな。

ともあれ、何らかの影響があるということと、その影響が持つリスクの多少、行政的な規制については、
それぞれのステップできちんと考えるべきことで、何らかのリスクがあったから即、規制強化という考えには立つべきではありません。

(私は、ポリカーボネート製のほ乳瓶がどうのと言うことには関心はありません。しかし、ビスフェノールAに代わる代替物質がない産業分野に規制の影響が及ぶ場合には、リスク・
ベネフィットをよく考えないと無用な混乱を引き起こすのではないかと懸念しています。制度をいじって社会的な混乱が起きるケースがこのところ多くなっている気がするので。)


 最近、上野動物園のパンダ
リンリンが死んだ際の報道で、「ヒトで言えば70歳」という喩えをしていたのですが、それって分かりやすい喩えなのだろうか?
ヒトよりも通常は長命な生物の場合でも「ヒトで言えば○○歳」といえば「分かりやすく」なるのかなと疑問に思った。また最近、

スウェーデンで樹齢9550歳のトウヒが見つかったというニュース
も聞いていたのですが、この場合はヒトで言えば何歳なのだろう。

 今回のニュースを聞いた際も、生物種間の相対成長をきちんと考慮しないと評価できない毒性もあるのだ、
と思った次第。 iPS細胞のがん化のリスクもレトロウイルスを使っている場合は、
マウスではがん化をコントロールできてもヒトでは長期的にはコントロールできないかも知れないな、とか。(ヒトの場合、
iPS細胞のゲノムに導入されたレトロウイルスのコピー数が少なければ、技術的には全部マッピングできるので、
ある程度予測はできると思うのですが。)

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