毒物及び劇物取締法メモ1

 β-メルカプトエタノールと毒劇法がらみで、このブログを訪問される方が増えている。フォローアップとして、もう少し有益な情報を提供しよう。

 各研究所等での毒劇物取扱のガイドラインについては、厚生労働省医薬食品局化学物質安全対策室のホームページが便利。
毒物劇物の適切な保管管理について」などのコンテンツが研究所等の規則の整備、日常点検の参考になる。

 以下は、毒劇法の「業務上取扱者」(つまり、製造、輸入、販売、特定毒物の研究をしない人)に関連した規制についてのまとめ。



 毒物及び劇物取締法(以下、毒劇法という)は、保健衛生上の(危害を防止の)見地から主に流通(製造、輸入、販売、取扱等)に対する規制を行うことを目的としている。

・・・なので、基本的には毒劇物の製造、輸入、販売業者に対する規制が前面に出ており、それ以外の毒劇物使用者(第22条で、「業務上取扱者」と言われる)についての規制ルールは、見つけにくい書き方になっている。研究所、大学、病院で毒劇物を扱う職員はこれに該当する。



第二十二条  政令で定める事業を行なう者であつてその業務上シアン化ナトリウム又は政令で定めるその他の毒物若しくは劇物を取り扱うものは、事業場ごとに、その業務上これらの毒物又は劇物を取り扱うこととなつた日から三十日以内に、厚生労働省令の定めるところにより、次の各号に掲げる事項を、その事業場の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。


 氏名又は住所(法人にあつては、その名称及び主たる事務所の所在地)



 シアン化ナトリウム又は政令で定めるその他の毒物若しくは劇物のうち取り扱う毒物又は劇物の品目



 事業場の所在地



 その他厚生労働省令で定める事項




 前項の規定に基づく政令が制定された場合においてその政令の施行により同項に規定する者に該当することとなつた者は、その政令の施行の日から三十日以内に、同項の例により同項各号に掲げる事項を届け出なければならない。


 前二項の規定により届出をした者は、当該事業場におけるその事業を廃止したとき、当該事業場において第一項の毒物若しくは劇物を業務上取り扱わないこととなつたとき、又は同項各号に掲げる事項を変更したときは、その旨を当該事業場の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。



 第七条、第八条、第十一条、第十二条第一項及び第三項、第十五条の三、第十六条の二、 第十七条第二項から第五項まで並びに第十九条第三項及び第六項の規定は、第一項に規定する者(第二項に規定する者を含む。以下この条において同じ。)について準用する。


 第十一条、第十二条第一項及び第三項、第十六条の二並びに第十七条第二項から第五項までの規定は、毒物劇物営業者、特定毒物研究者及び第一項に規定する者以外の者であつて厚生労働省令で定める毒物又は劇物を業務上取り扱うものについて準用する。


 厚生労働大臣又は都道府県知事は、第一項に規定する者が第四項で準用する第七条若しくは第十一条の規定若しくは同項で準用する第十九条第三項の処分に違反していると認めるとき、 又は前項に規定する者が同項で準用する第十一条の規定に違反していると認めるときは、その者に対し、相当の期間を定めて、必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。


 第二十条の規定は、厚生労働大臣又は都道府県知事が第四項で準用する第十九条第三項の処分又は前項の処分をしようとする場合に準用する。

ということで、一般の「業務上取扱者」に適用される規制を確認する。


第十一条  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物が盗難にあい、又は紛失することを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。


 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物若しくは物又は毒物若しくは劇物を含有する物であつて政令で定めるものがその製造所、 営業所若しくは店舗又は研究所の外に飛散し、漏れ、流れ出、若しくはしみ出、又はこれらの施設の地下にしみ込むことを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。



 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その製造所、営業所若しくは店舗又は研究所の外において毒物若しくは劇物又は前項の政令で定める物を運搬する場合には、これらの物が飛散し、漏れ、流れ出、又はしみ出ることを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。



 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は厚生労働省令で定める劇物については、その容器として、飲食物の容器として通常使用される物を使用してはならない。

 なるほど。 盗難防止、漏出防止、誤飲防止ですね。

第十二条  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物容器及び被包に、「医薬用外」の文字及び毒物については赤地に白色をもつて「毒物」の文字、劇物については白地に赤色をもつて「劇物」の文字を表示しなければならない。

 市販の試薬の容器で保管する場合は概ね問題ない(*)が、小分け容器に入れてある場合は対応が必要

(*) 古い試薬の場合、ラベルに印刷されていない場合がある。また、輸入品で、なおかつこれまで毒物でなかったもの(例えばβ-メルカプトエタノール等)の場合は、販売時にラベルに印刷されていないので個別に対応が必要。

 つかいさしのボトルの内容量は、さすがに汚染の危険をおかしてメスシリンダーで計るわけにもいかないので、ボトルごと天秤で秤量して差分を記録していくほかない。紛失や盗難への対策という意味ではこれで十分だろう。

容器への表示については、


 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物を貯蔵し、又は陳列する場所に、「医薬用外」の文字及び毒物については「毒物」 、劇物については「劇物」の文字を表示しなければならない。


 これは所定の保管場所にあればまず大丈夫。 色の指定はない。

第十六条の二  毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その取扱いに係る毒物若しくは劇物又は第十一条第二項に規定する政令で定める物が飛散し、漏れ、流れ出、しみ出、又は地下にしみ込んだ場合において、 不特定又は多数の者について保健衛生上の危害が生ずるおそれがあるときは、直ちに、その旨を保健所、警察署又は消防機関に届け出るとともに、保健衛生上の危害を防止するために必要な応急の措置を講じなければならない。


 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その取扱いに係る毒物又は劇物が盗難にあい、又は紛失したときは、直ちに、その旨を警察署に届け出なければならない

 数量管理をきちんとしていないと紛失はチェックできない。年度途中で毒物に指定された物があると対応に追われるが、仕方がない。

第十七条  (略)。


 都道府県知事は、保健衛生上必要があると認めるときは、毒物又は劇物の販売業者又は特定毒物研究者から必要な報告を徴し、又は薬事監視員のうちからあらかじめ指定する者に、これらの者の店舗、研究所その他業務上毒物若しくは劇物を取り扱う場所に立ち入り、帳簿その他の物件を検査させ、関係者に質問させ、試験のため必要な最小限度の分量に限り、毒物、劇物、第十一条第二項に規定する政令で定める物若しくはその疑いのある物を収去させることができる。


 前二項の規定により指定された者は、毒物劇物監視員と称する。


 毒物劇物監視員は、その身分を示す証票を携帯し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。


 第一項及び第二項の規定は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

 報告聴取、立入検査の項目。非常事態でなければ普通は対応する必要は生じない。

 準用規定は以上。あれ?末端の「業務上取扱者」は行政指導の対象になっていない。
 事業の許認可に関わる権限が及ばないためだろうか。それから気になるのは罰則。

 取扱の第十一条関係は、罰則なし。第十二条関係は、第二十四条第二号

第二十四条  次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。


 (略)


 第十二条(第二十二条第四項及び第五項で準用する場合を含む。)の表示をせず、又は虚偽の表示をした者

 容器、保管場所の表示義務違反はかなり重い処分です。しかも、行政指導のワンクッションもなく直罰! これは要注意。

 事故時の対応、第十六条の二関係は、第二十五条第三号



第二十五条
 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。


 (略)


 (略)


二の二
 (略)


 第十六条の二(第二十二条第四項及び第五項で準用する場合を含む。)の規定に違反した者

 盗難・紛失した場合は三十万円以下の罰金だそうです。盗まれた上に罰則、まさに踏んだり蹴ったり。

 それから、忘れちゃいけない両罰規定、使用者責任に関しては、


第二十六条
 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第二十四条、第二十四条の二、第二十四条の四又は前条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各本条の罰金を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため、その業務について相当の注意及び監督が尽されたことの証明があつたときは、その法人又は人については、この限りでない。

とある。注意・監督義務が適切に履行されていた場合は罰則の対象ではないとのこと。

 廃棄物関係はこちらを参照(根拠法が書いてないのがなんですが、廃棄関係は第十五条の二)・・・これは驚いたことに、第二十二条第四5の規定する末端の「業務上取扱者」には適用されない様に見える。本当かな?

とはいえ、廃棄物については他法令への準拠も求められるので、そのまま捨てる訳にはいかない。

 廃棄関係については、実は第十五条の二にこうある。

第十五条の二  毒物若しくは劇物又は第十一条第二項に規定する政令で定める物は、廃棄の方法について政令で定める技術上の基準に従わなければ、廃棄してはならない。

 ここで言う「政令」とは、毒物及び劇物取締法施行令のこと。関連部分は以下の通り

 第九章 毒物及び劇物の廃棄


第四十条  法第十五条の二 の規定により、毒物若しくは劇物又は法第十一条第二項に規定する政令で定める物の廃棄の方法に関する技術上の基準を次のように定める。


 中和、加水分解、酸化、還元、稀釈その他の方法により、毒物及び劇物並びに法第十一条第二項に規定する政令で定める物のいずれにも該当しない物とすること。


 ガス体又は揮発性の毒物又は劇物は、保健衛生上危害を生ずるおそれがない場所で、少量ずつ放出し、又は揮発させること。


 可燃性の毒物又は劇物は、保健衛生上危害を生ずるおそれがない場所で、少量ずつ燃焼させること。


 前各号により難い場合には、地下一メートル以上で、かつ、 地下水を汚染するおそれがない地中に確実に埋め、海面上に引き上げられ、若しくは浮き上がるおそれがない方法で海水中に沈め、又は保健衛生上危害を生ずるおそれがないその他の方法で処理すること。

 β-メルカプトエタノールは還元剤なので酸化してしまえば他の物質になる訳だが、高濃度だと発火する。一方、濃度規定があれば薄めれば良いのだがβ-メルカプトエタノールについては濃度規定はないようだ。

 従って、薄めただけでは毒物のまま。中和するには、低濃度にしておいて、パーマ液に使われるマイルドな酸化剤(過酸化水素水、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムあたり)を加えるのが良いかも知れない。なお、過酸化水素水も6%以上の高濃度だと劇物になります(毒を以て毒を制す、というか、劇を以て毒を制すというか・・・)。

 毒劇法の法定の廃棄方法に未だに海洋投棄があるのはびっくりだ。他の法令に引っかからないものだろうか。どう → 環境省の人?



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