統計ソフトウエアJMP ver.6.0.3をWindows vista (64-bit)で使用していたのだが、
起動時に毎回ライセンスの修復が要求されるというトラブルに見舞われた。最初は、毎回管理者権限でプログラムを実行できたのだが、JMPプログラムファイルのプロパティーを変更して常に管理者権限で動くように設定したところ、この現象が起こるようになった。

 SASインスティチュート・ジャパンのサポートに連絡してライセンス修復のためのレスポンスコードを送ってもらったのだが、毎回起動時にこの現象が起きるようでは実用に耐えない。そこで、JMP ver.7へのバージョンアップを検討していたら、SASインスティチュート・ジャパンから次のようなメールがきた。

 米国では既にリリースしておりますが国内でも9月1日よりJMP 64-Bit Editionをリリース致します。

http://www.jmp.com/software/64bit/index.shtml

現在ご利用の買取パッケージライセンスとは異なりまして、年間ライセンス契約のみの設定となりますが、現在ご利用のJMPで対応できないデータ量の遺伝子データが御座いましたらお試し頂ければ幸いです。



発売前の、評価版の貸出は可能になります。

評価版貸出には「評価版ライセンス契約」を締結頂く必要が御座います。

評価版貸出ご希望の際は、別途ご連絡お願い致します。



価格は、1ユーザ 初年度¥528,000(税別) 次年度参考更新価格¥180,000(税別)となります。

※年間ライセンス契約のみとなります。

※「ライセンス基本契約」「付属書類」の契約書の締結が必要になります。

 32-bit版のJMP ver.7であれば、ver.6からのアップグレード価格は\60,900で買い取りできる(JMP ver.7でも64-bit OSはサポート対象外だが)。アップグレードでない新規購入でも本体価格\168,000だ。それから見ると


1ユーザ 初年度¥528,000

というのは破格の価格設定だ。どのみち評価版は期限付きでしか使えない。SASインスティチュート・ジャパンでは評価版を借りたら次は製品版を買うと考えたのだろう。

このお知らせの残念な所は3つある。

その1、

 JMP の発売元であるSASインスティチュート・ジャパンのセールスはJMPというソフトウエアの良さがちっともわかっていない。JMPはGUIも良くできているが、PCで軽く動かせるところが最大のメリットであるのに、そこが理解できていない。大きなデータセットを扱いたければ、SASを使えばよい。

 私の環境では、VMwareLinuxを動かせるので高速ネットワーク越しにSAS 9.1.3が使える。従って、大きなデータセット向けと言う意味であれば、64-bit版JMPをライセンス契約する動機は極めて薄い。私は、仮想マシンを動かすためのメモリーに余裕が欲しくて64-bitOSを使っているのであって、データセットが大きいのでそれに合わせて64-bit OSを導入した訳ではない。

その2、

 64-bit版JMP ver.7に買い取り型のライセンスが設定されていないことと、そのため買い取った32-bit版 ver.6からのアップグレードができないこと。CPUの進化に併せてOSも今後64-bit化していくのは当然の流れ。・・・なのにこの価格設定は一体?先走って64-bit版のOSを採用した客が馬鹿を見る仕掛けだ。

 そのうちSASの本社のあるアメリカも不景気になるので高いソフトは売れなくなる。64-bit OSの導入は向こう2-3年のうちにWindowsの次期バージョンの浸透に合わせて進むだろう。その時点では64-bit OSに対応できないソフトは主流ではありえない。であれば、64-bit OS対応のJMPが競合製品に勝つためには値下げをする他無いだろう。今のところ、64-bitのネイティブモードで動く統計ソフトにライバルは居ないというのでこの価格設なのかもしれないが。

その3、

 他に全く選択肢がない顧客に対する提案としてはこのような手口でもよいのかも知れないが、GUIが使いたければSPSSもある。価格はそちらの方が多分安いので、この提案には価格競争力がない。

 ということで、安くて軽いというJMPのメリットは急速に失われつつある。
そろそろJMPの使用を止める時期になってきたと言うことかもしれない。

 私がJMP等の統計ソフトを使う時間は、年間でのべ1ヶ月に満たない(専業の統計屋さんではないので)。50万以上するソフトをいきなり買う予算は無いし、それだけの予算に余裕があれば、実験装置や試薬、消耗品に充てる。

 In silicoのラボであれば、その予算でサーバーをたててLAMPとRを繋ぐことを考えるだろう。ラボ単位でこのクラスのソフトにお金を使えるのは、インフォマティシャンと縁の薄い医学系のラボくらいだろう。いずれにしても、この売り込み方は間違っている。

 私の当面の対応としては、

  1. VMware 上でWindows XP (32-bit 版、OEM版ではないのでライセンス上の問題は発生しない)を動かし、そこにJMP ver.6.0.3をインストールして使う。
    バーチャルマシンを単体のハードウエア上に限って動かすであれば、JMPのライセンスにも抵触しないだろう。
  2. 大きなデータセットの場合は、VMware上のLinuxからネットワーク越しにSAS 9.1.3を使う。

ということになるだろう。OSごと古いソフトを仮想化して単機能のバーチャルマシンとしてファイルにバックアップしておけば安全だ。
 パソコンのCPUは年々スピードアップしていく。仮にJMPの毎年のライセンス料ほどお金を払うのであれば、パソコンを更新して仮想マシンごと移し替えれば、仮想マシンが年々速くなっていくというおまけも付いている。

 仮想化ソフトもVMware以外にXenもでてきたし、どんどん安定で効率的なものに進化している。私は今のところ先行したVMware仮想マシンを運用しているが、ライバルの会社はVMware仮想マシンを自社用に変換する方法を必ず用意するだろう。その方がライバルから顧客を奪い取りやすいからだ。

 そのうち価格競争力で劣る64-bit版JMPの買い取り型の販売も始まるだろうから、そしたら買ってやらないでもない。しかし、今のSASインスティチュート・ジャパンの方針では、既に買い取り型のライセンスでJMPを導入した顧客はどんどん離れていくことになるだろう。



 ソフトウエアメーカーやハードウエアメーカーにはこれだけは理解していただきたいのだが、仕事でコンピュータを使う顧客はソフトウエアやハードウエアが欲しいわけではない。統計処理の能力が欲しいだけだ。ネットワークが高速化すれば手元に高速なCPUや大規模ストレージを置く必要は無い。OSだって単純で軽いものの方が良い。

 近頃、ハードディスクの大容量化が進んでいるが、デフラグやスキャンディスクの速度はちっとも早くなった気がしない。維持管理に手間のかかる大規模なストレージなんて誰だって本当は手元においておきたくない。CPUだって高速化はしているが、その発熱も馬鹿にならない。結局、室温を下げられないオフィスではまともに仕事もできない。計算機が早くなっても人間が律速段階になってしまう。

 ソフトウエアだって、OSのインストールなんて誰もやりたくない。ほおっておいてもインストールが進めば良さそうなのにくだらない質問をして、いちいちクリックしてやらないと先に進まない。
 呪文のようなライセンスコードを要求する面倒なアクティベーションも有る。

 パソコンがクラッシュするたびに、OS、オフィスツール、写真を加工するペイント系ソフト、作図するドロー系ソフト、辞書、メールソフト、アンチ・ウイルスソフト、統計パッケージやらなにやらを導入しなおすと1-2日かかる。そんなパソコンが数台あるともう大変だ。
 OSやソフトのルック・アンド・フィールなんて、ほとんどどうだって良い。最初から全部丸ごとそろった状態で軽く安定に動いてくれるだけでいい。




 とある実験機器メーカーのカタログには、たしかこう書いてあった。「販売するのは遠心力です」と。そのメーカーは、遠心機というハードウエアの欲しい客は居ない、遠心分離をするのに必要な遠心力が欲しいだけなのだ、ということを良く知っているのだ。
 こういう謙虚な会社が私は好きだ。

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