農研機構 花卉研究所のサイエンス・コミュニケーションに関するセミナーに参加した。

 これまで私はサイエンス・コミュニケーションといえば、研究者が専門分野を共有するコミュニティー以外の人々に自らの研究内容を伝え、相手のレスポンスを理解してフィードバックすることだと考えていた。

 しかし、今日の講演を聴いて認識を新たにした部分がある。それは、サイエンス・コミュニケーションを”製作する”プロデューサー、あるいは”組織する”コーディネーターとしての働きもまた、サイエンス・コミュニケーションの構成要素であるとされていることだ。

 これは、喩えとして適切かどうかわからないが、サイエンス・コミュニケーションを芸能活動に例えると、研究者はアーティストやタレント、コーディネーターはプロデューサー、研究機関はプロダクションという位置づけになるだろうか。その全体を併せた活動を、サイエンス・コミュニケーションと位置づけることができるだろう。

 こうして見ると、伝えるコンテンツとしての研究がまず最も重要で、その点では高い水準の研究機関は多いのだが、サイエンス・コミュニケーションという視点で見ると、日本の研究シーンにはプロデューサーにあたるポジションの人材がきわめて希薄だ。研究者のサイエンス・コミュニケーションのスキルを磨いただけでは、誰かがコミュニケーションの場、方法、相手をセットアップしない限り、現実のコミュニケーションは成立しないのだから。

 # そこまで研究者に担わせるのは酷すぎる。

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今日の講演で、個人的になるほど!と思ったポイント。

科学者の科学リテラシーとは何か?

  1. 研究者と言えども、自分の専門分野以外については素人。多様な研究分野に対する理解力を科学リテラシーという。
  2. 研究の社会的な意義、社会における研究者としての立ち位置を客観的に把握できる能力。

※ 研究分野がより精密に細分化されていく現代にあっては、1.の意味の科学リテラシーは研究者自身の研究の推進上も結構重要な意味を持っている。たとえば、分析技術の専門家のスキルを借りたい場合に、どうやって説明するか?など。

サイエンス・コミュニケーションの構成要素

  1. 研究者として自分の研究内容を、知的基盤を共有しない人々に伝え、相手の反応を自身の活動にフィードバックすること。
  2. サイエンス・コミュニケーションというコンテンツを”制作”するプロデューサーあるいはコーディネーターとしての働き。

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 こうしてみると、私自身は結構、生物学の中でも色々な分野にタッチしてきた。地域の小さな研究所にいると、育種、昆虫、土壌微生物、植物病理、植物生理、食品化学など農業関連という括りではあるが、様々な研究分野の人々と話をし、時には一緒に仕事をすることができる。

 私自身の研究者生活の出発点として、地域の農業試験場に居た経験は科学に対する”間口”を広げる上で良いことだったのかもしれない。

 ちなみに、Googleで私の名前を検索すると、結構いろいろなものが引っかかってくる。オオムギの育種、モチ性オオムギを原料にしたパンの研究、イグサの品種識別マーカーの開発、カンキツグリーニング病の病原体の検出法、硝酸還元酵素から見た土壌微生物の分類、イネ種子根のマイクロアレイ解析、オオムギのモチ性遺伝子の構造解析、スギ花粉症緩和米の生物多様性影響評価、はては、”納豆菌のDNAフィンガープリント”まである。

 そうそう、研究以外で言えば、カルタヘナ法関連の業務では文部科学省の方々と働いたこともあった。役所の人々が、1日中何をしているかといえば、主に、企画や法律に関する文書の読み書き、電話の対応、メールの対応、会議・・・仕事の内容ではなく、形式・様態について着目すると、実はどれも”コミュニケーション”そのもの、あるいはその準備に他ならない。そう言う意味では、私は出向中の2年間、毎日コミュニケーションを主な業務としていたと言えるかも知れない。

 我ながら研究分野も、研究手法も目茶苦茶に散らばっていると思うが、これも、研究分野の少しずつ重なる人々と一緒に仕事をしてきた一つの結果だ。大学にとどまっていたらこういう仕事はできなかっただろう。そう言う意味では、様々な研究分野で、異なる仕事の切り口、異なる考え方の作法、論文をまとめる際の異なる方向性を、それぞれの研究者コミュニティーに入り込んで学ぶことができた。そうとは知らずに、かなり深いところで、一種のサイエンス・コミュニケーションを実践してきたということになるのかも知れない。

 しかし、今になって、一つだけ困ったことがある。それは「ご専門は何ですか」と尋ねられた時に、答えに窮することだ。私は、専門店というよりも田舎の百貨店のような研究者なのだから。

# 最近、論文がMinor revisionで通ったので、私のレパートリーにまた一つ相当に違う分野の論文が加わることになるだろう。

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