誰が誰を批判しているのか?それが問題だ。朝日新聞より。

WHO、察知から対策本部設置に2週間 初動遅れ批判も

2009年5月4日2時8分


 新型の豚インフルエンザが最初に発生したとされるメキシコの保健関係者から、世界保健機関(WHO)に対して「初動の遅れ」を批判する声が上がり、WHOは2日、記者会見で経緯を説明した。メキシコから異変を伝えられたWHOが対策本部をつくったのは2週間後だった。双方の主張には食い違いが目立ち、当事国であるメキシコへの批判も消えない。様々な情報が飛び交う中で、感染の被害は深刻さを増していった。

 WHOの対応の遅れを指摘したのはメキシコの国立疫学監視・疾患統制研究所のレサナ所長。AP通信によると、同所長は4月16日、季節はずれのインフルエンザや肺炎が多発していることを、WHOの下部組織「汎米保健機関」(PAHO)に報告した。しかし、WHOは8日後の24日に事態を公表するまで何ら対応しなかった、という。レサナ所長は「WHOはもっとすみやかであるべきだった」と批判し、WHOの危機対応について調査を求めた。

 これに対しWHOは今月2日、感染症警戒システム担当部門のマイケル・ライアン部長が会見で経緯を説明した。


 部長によると、メキシコの異変情報は4月11日に専門家から寄せられた。17日、WHOはメキシコ当局に正式に照会したが、回答は「重症肺炎例」と感染の広がりを打ち消す内容だった。

 その後、WHOは米カリフォルニア州の事例について米疾病対策センターCDC)やメキシコと情報交換。その過程でメキシコは22日、WHOに「季節はずれのインフルエンザ流行への懸念」を報告。それが翌日の報告で「死亡者12人を含む47の重症例」に転じるなど、情報収集面での混乱ぶりがうかがえる。


 WHOが対策本部を立ち上げたのは25日。メキシコの検体を分析したカナダから、新型ウイルスを確認したと連絡がきた日だった。

 CDCの報告書によると、メキシコで最初の患者が発症したとされるのは3月17日。政府は4月17日に全国で発生状況を調べ始め、重い呼吸器病の全症例を報告するよう病院に要請した。18日には保健省の担当者らが各地を回って感染拡大を確認したが、関連部局に情報が速やかに伝わっていたか明らかでない。


 メキシコ政府はレサナ所長に距離を置き、WHOへの批判を避けている。同国の初動対応によっては、北米などへの感染拡大をもっと抑えられたという指摘があり、矛先が自身に向けられるのを恐れているとの見方がある。

 一連の経緯について、インフルエンザに詳しい外岡(とのおか)立人・元北海道小樽市保健所長は「WHOの役割は世界の感染症の早期発見にある。結果的に感染が広がってからしか動けておらず、遅い」と指摘。一方、WHO勤務の経験がある押谷仁・東北大教授は「今回のようなケースは封じ込めが難しい。軽症例が多く、通常の季節性インフルエンザと見分けがつかないうちに感染が広がるためだ。1週間程度、確認が早まったとしても、結果は大きく変わらなかっただろう」とみる。

(ロサンゼルス=土佐茂生、ジュネーブ=井田香奈子)

この記事から分かること。

[メキシコ側の主張]

  • 4/16、季節はずれのインフルエンザや肺炎が多発していることを、WHOの下部組織「汎米保健機関」(PAHO)に報告。
  • 4/24、WHOが事態を公表。
[WHOの説明]
  • 4/11、メキシコ国内の(?)専門家が”異変情報”をWHO(?)に連絡。
  • 4/17、WHOはメキシコ当局に正式に照会したが、回答は「重症肺炎例」と感染の広がりを打ち消す内容。
  • 4/22、メキシコは、WHOに「季節はずれのインフルエンザ流行への懸念」を報告。
  • 4/23、メキシコ報告で「死亡者12人を含む47の重症例」。
  • 4/25、WHOが対策本部を立ち上げ。
[CDCの報告書]
  • 3/17、最初の患者。(ただし、記事では何の患者か分からない)
  • 4/17、メキシコ政府、全国で発生状況を調べ始め、重い呼吸器病の全症例を報告するよう病院に要請。
  • 4/18、保健省の担当者らが各地を回って感染拡大を確認。
[メキシコ保健当局とメキシコ国立疫学監視・疾患統制研究所所長の関係]
  • メキシコ政府はレサナ所長に距離を置き、WHOへの批判を避けている。
CDCの報告書を信頼するならば、初動の遅れは最初の患者の把握から一月近く状況を把握できなかったメキシコ保健当局にあるように思う。

WHOは国際機関として国境を越えた感染症の拡大を防ぐ責任を負っている。しかし、世界各国に直属の検査機関を持っているわけではないので、各地での感染症の発生状況の把握は、それぞれの国において国内法で国民の健康に対して責任を負うことが定められている保健当局の肩にかかっている。そのルートからの報告がなければWHOと言えども状況を把握できないだろう。また、メキシコ国内での感染症のコントロールの責任はどう考えてもメキシコ保健当局にある。隣国である合衆国保健当局がWHOの初動の遅れを指摘するのなら話は分かるのだが。

4月25日頃からの日本の新聞各紙の報道ではたしか、メキシコ保健当局の不正確な発表に基づきメキシコ国内での新型インフルエンザ(当初は”豚インフルエンザ”と呼ばれていた)感染者は1,000人以上、死者200人以上と伝えられていた。その後、メキシコ保健当局が事実確認をした結果、5/2時点では感染者433人、死者16人(時事通信による)となっている。

このような経過から、メキシコ保健当局には正確に状況を認識する能力はないと推定される。また、カナダ保健当局にウイルス検体を送付して調査を依頼していることから、自国内で流行している新型インフルエンザ様の感染症の原因ウイルスを特定する能力にも疑念がある。そのことは、おそらくメキシコ政府自身が最もよく認識していることだろう。そこで、”メキシコ政府はレサナ所長に距離を置き、WHOへの批判を避けている。”という姿勢になったと考えられる。

この記事でも、本文の事実関係を見ると、4/11にメキシコの”専門家”からWHOに連絡が入ったという経緯も通常の連絡体制に則ったものとは考えにくいし、4/16以降にメキシコ保健当局が国内でどのような対策を執ったのかも示されていない。挙句、保健当局の不正確な患者数の公表・・・。この記述で初動が遅れた非難の矛先をWHOに向けるのは如何にも的外れだろう。記事は一連の経緯の見方において、関係当局間で混乱があることを伝えているのみなのだが、それと比較して、この見出しのつけ方はずいぶん偏っている。

私には、メキシコ国内での感染症の監視に責任を負う当局者が仕事をしくじって、非難の矛先を変えようとしている悪あがきに朝日新聞がまんまと乗せられてしまっているように見えるのだが・・・。

# しかし、メキシコ当局はなぜCDCではなくカナダ保健当局にウイルス検体を送ったのだろうか。近隣諸国で最も検査体制が整っているのは合衆国だと思うのだが、どんな事情があったのだろうか。

ちなみに、韓国は国内の感染の疑いのある患者の検体を合衆国CDCで調べてもらっている。ニュース映像をみると、空港では耳穴式赤外線体温計で乗客一人一人の体温をチェックしていた。そこそこ正確ではあるのだけれど、これは新型インフルエンザ対策の行動計画ができていなくて、サーモグラフィーを準備できていないということではないだろうか。

# メキシコなどの新型インフルエンザ発生国からインチョン空港乗り換えで帰国する旅行者は居ないのかな。ちょっと気になる。

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