独立行政法人=官僚の天下り先で無駄な事業をしているところ、という刷り込みが盛んに行なわれている。
わが国の独立行政法人という制度にはモデルがある。小さな政府を目指した1980年代のイギリスのサッチャー政権が採用した”エージェンシー”(Agency)と言う制度がそれだ。政府の企画・立案部門と執行・事業部門を分けて、企画立案部門(中央官庁)の負荷を下げて効率を上げるとともに、事業部門の独立性を高め予算執行の柔軟性を高め、同時に人件費を抑制するという狙いだった(サッチャー政権下で採用された施策のまとめはこちら。市場原理の導入の結果、国民に貧富の差が広がり、”現実には、働きたくても何ら技能も経験もない、いわば競争のスタートラインにすら立てない層が存在し、彼らは改革の痛みを全面に受けた”という記述は、わが国の小泉改革のもたらした結果とよく似ている)。

橋本行革(1996-2001年頃)では、行政のスリム化を目的に、この独立行政法人と言う制度が採用され、国家公務員の定員は大幅に削減された(橋本行革のまとめはこちら)。

その設立の背景からも明らかなように、独立行政法人の事業は概ね国の事業として行なわれてきた行政サービスだ。一部、理化学研究所のように特殊法人から独立行政法人になったものもあるものの、収益性の良い事業であれば既に民営化されているはずである。その代表的なものは、国鉄電電公社、専売公社などがそうであった。そして、郵便事業も民営化されつつある(これらの事業は独法化せずにダイレクトに民営化に向かった)。

そして、制度設計から10年、独立行政法人にも良いところも悪いところもあるだろう。廃止も含めてゼロベースで見直すこと自体は悪くは無い。新しく政権を担当する政党が向こう4年間のうちに99の独立行政法人の事務事業を見直すのであれば、それ自体は間違っては居ない。問題はその見直しの目的だ。

毎日新聞より。

民主党:独法資産活用へ法改正 24兆円精査の方針

 民主党は12日、99ある国の独立行政法人(独法)に蓄えられた純資産を取り崩し、財源として活用するための法改正に乗り出す方針を固めた。党の
政権公約マニフェスト)で、独法を「全廃を含めて抜本的に見直す」としており、保有資産などが「第2の霞が関埋蔵金」に当たると主張している。合計
24.4兆円(07年度末)に達する独法の純資産などを精査し、子ども手当や高速道路の無料化など同党の目玉政策の財源に活用する考えだ。

 独法には09年度予算ベースで国から3.4兆円の補助金が支出される一方、独法からの09年度予算(一般会計)への納付金は680億円に過ぎな
い。現行法では、独法の毎年の利益の蓄えである利益剰余金の一部しか、国庫に返納させることができないからだ。独法が、不要な不動産などを売却しても、簿
価を上回った部分しか国は回収できないのが現状だ。

 このため、民主党は独法の共通ルールを定めた独立行政法人通則法を改正し、国庫に返納しやすい制度を導入、24.4兆円の取り崩しなどを進める方
針だ。また、独法の全役員ポストのうち3割にあたる187人が、所管官庁などから天下りした公務員で占められている(08年10月)。民主党は「天下り
を確保するために不必要な業務が行われている」と批判を強めており、年間3.4兆円の補助金についても、10年度予算で一定割合をカットし財源に回す考え
だ。

 独法の純資産のうち現金はわずかで、建築物や学生への奨学金など、独法の事業目的に応じた資産に振り替わって存在している。取り崩しにはこれらの資産を売却することが必要だ。【斉藤望】

とはいえ、公約した施策を実現するお金を捻出するために既存の独法を”全廃”というのは無理がある。もともとは政府の行なってきた行政サービスなのだから、行政サービスを切り捨てるにもそれなりの理屈が必要だ。業務見直しの結果、施策の目的が時代にそぐわないとか、業務効率面では民間委託が適当という理由で廃止する法人があればそれは当然のことだが。

民主党の支持基盤の一角である労組的には、独法の事業を再度国の事業に戻すべきという主張があるのかもしれないが、研究開発系の独法にとっては、国の事業として執行する方が業務効率があきらかに下がるケースも多々ある。何が何でも単年度で予算を執行しなくてはならない、という予算管理システムは研究開発にはそぐわない。

建物は例外かもしれないが、調査船、大規模なコンピューター、ロケット、多年度に渡る動物実験など、”単年度決算+年度ごとの入札”ではどうにもならない事業が結構ある。

# 自衛隊の艦船の調達なんてどうやっているのだろう。

かつて環境省が”環境ホルモン”対策といて実施した"環境ホルモン戦略計画SPEED'98"で行なった亜慢性毒性試験や、昨今の化審法対応の長期毒性試験などもそうだ。受託で動物実験を行なう事業者とあらかじめ周到な準備をしておかないと、7月ごろに独法に予算が降りてから計画にとりかかったのでは到底年度内におさまらない。しかも、公募で委託先を決める場合には、予め試験計画をつめておくこともできない。

今後、独立行政法人を廃止するのであれば、このような法律に基づく安全確認などを国の事業として継続する場合に備えて、予算の多年度にわたる執行をできるようにする必要がある。

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