正しい委託事業費の削り方

[ニュース]

政府が行なう委託事業とは、政策目標を達成するために、事業者に対して事業の実施を頼みゆだね、その経費を税でまかなうものだ。従って、基本的には政府が自分ではできないことを”お願い”する姿勢になる。

# 委託=法律行為または事実行為(事務)などを他人に依頼すること。

政府の委託事業の場合、研究開発であれば、外部の専門家を集めた評価委員会が開かれて、その事業運営方法や成果に対して査定を受けることになる。これまで委託事業を実施してきた受託先機関から今般の行政刷新会議事業仕分けを見るとどう見えるだろうか?

事業をやってくれない?って政府から募集があったから応募したし、採択されたということは、政府から”お願いされた”つもりだったんだけどなぁ。税金で事業を運営するからにはコストダウンは当然のことだけど、これまで評価会議でも運営方法や成果については特に問題ないと言ってたから、普通に続けていれば委託事業の目的は達成できると思っていたのに、急に横合いから嘴を突っ込んできた奴らが、居丈高に「お前のところの事業効率が悪いから事業費を3割削減する」ってひどいよ。お願いしていたくせに、結局は下請けイジメじゃないか。もう事業規模も拡大しちゃったし、これで人件費を削らなきゃいけないのなら、こちらの責任で契約職員のクビをきらなきゃいけなくなるじゃないか。選挙前に言ってたことと、今やってることが違う!

事業費の多くを人件費に当てていた受託元機関から見ると、多分こんな風に見える。事業仕分けで既存事業3兆円を削減するのであれば、仮にその10%が人件費に当てられている場合には、来年度は3,000億円相当の雇用に影響する恐れがあるということだ。仕分け人や行政刷新会議にはその想像力があるのだろうか。

せめて次のように言われれば、まだ自腹で雇用を何とかする気にもなるだろうけれど。

私共は、国民の皆様の支持のおかげをもちまして、今般、政権を担当させて頂くこととなりました。野党時代には与党による予算の膨張を止めることができず、国債の発行残高が拡大して国民の皆様には大変にご迷惑をかけてまいりました。これもひとえに私共の力不足によるものと心得ております。

国民の皆様ご案内の通り、与党・政府による国債発行残高はGDP比200%を超えております。これは年収400万円の家庭の家計に喩えますと800万円の借金を担っているという状況に近いものであり、財政状況は逼迫しております。

一方、総選挙の際にはマニフェストで国民の皆様に、新たな施策をお約束したところです。これらの新規事業の実施には財源の確保が必要ですが、財政の健全化も喫緊の課題です。そこで、増税をせずに新規事業に充当する3兆円の財源を確保するため、従来行なってきた事業予算を見直し、規模を縮小する政治的決断をいたしました。この予算削減はひとえに委託元たる政府の都合よるものであり、事業委託先の責任を問うためのものではありません。

また、これによって、従来行なってきた施策につきましては、国民の皆様へのサービスが低下する恐れが御座いますが、その点につきましては総選挙の結果と昨今の財政事情の悪化に鑑みて是非、国民の皆様のご理解を賜りたくお願い申し上げます。

さらに、予算削減に関連する委託事業におきましては、事業委託先での職員の雇用に影響する可能性が御座います。ついては、委託事業受託先の関連機関の皆様に置かれましては、私共の委託費は削減させていただきますが、従来以上のコスト削減に勤めていただき、雇用となお一層の事業成果の確保に努められることを心よりお願い申し上げます。

受託先機関から見れば「申し訳ないけどこちら(政府)の懐具合が悪いので、委託費は減らします」というのならまだ分かるが、お願いされて引き受けてあげた
のに、急にお前のところの効率が悪いから減額だ、と言い出されたのではたまらないだろう。委託元が急にクレーマーに豹変したような気がするだろう。

委託事業の必要性は認める一方で、委託先の効率が”悪いの”で経費を削るという理屈は、生産効率を客観的・統一的に評価する評価方法も基準も無い以上、何と比べて悪いのかを示すことができない。また、委託事業の必要性を認めたなら、どうすれば効率をよくできるのかが次の議論のポイントのはずだ。だが、それを提示できない上に、なおかつ事業予算を減さざるをえないのであれば、それは政府による事業運営の失策なのだ。委託先に迷惑をかけるのであれば低姿勢に出るのが筋だ。

ちなみに、理研の植物科学研究センターとバイオリソース事業に対する仕分け人の評価は、朝日新聞によれば

「投資額に見合う成果ない」

だそうだ(正式なコメントはいずれこちらで公表される)。ライブ中継で仕分け人の一人はたしか”リターンがとれる仕組みがない”、という言い方をしていたがこれは大きな勘違いをしていることを示している。

基礎的な自然科学の研究は、人類の自然界に対する理解の拡大を通じて社会をゆたかにする知的基盤を構築する活動であって、短期的に金銭的なprofitを目指す経済活動ではない。たしかに”事業予算”ではあるが、知的基盤は道路やダムと同じように、その基盤を利用する人々が長期的に利益を得る性質のものであって、知的基盤を整備する事業そのものから見返り(リターン)が得られるものではないのだ。いわば、アカデミアに対する公共事業なのだから。

# ”公共事業”だから削られたのかな。

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