多忙な、というか密度の高い一週間でした。
8/9-10で遺伝子組換え技術等専門委員会の予定でしたが、超ハイスピードの審査でなんと1日目で54課題(?)の審査が終了しました(私の担当分はそのうち15課題)。午前10時から午後8時までのマラソン会議。組換え手法、ウイルス種ごとに課題を並べて、委員の皆様の頭の切替時間を最小限にとどめて進行を加速するというプログラム編成は大成功でした。が、終わってみると、ピークを乗り切ったという、そこはかとない充実感はあるものの、身も心もヨレヨレ。今回のように、実質的な審議時間が短いとどうしても申請書の隅々まで目がとどかないということになりがちなので、それだけ従来よりも事務局の事前審査の持つウェイトが大きくなります。一層、気を引き締めて審査に臨まなくてはいけません。
委員会終了後、新しい学術調査官をスタッフに迎えて、次回委員会の担当課題の割り振り。私は例によって5課題を担当。終了後は打ち上げ。サクッと飲んで帰る。

10日
委員会の結果通知と、修正依頼あるいは指摘事項のとりまとめと、メール発送。合間を見て、”審査マニュアル”のアウトラインを考える。次の課題の申請書をスキャナで取り込みつつ、問題点を整理。一部の課題は、産生されるウイルスが組換え生物にあたらないということで、ナチュラル・オカレンスとして差し戻し。手持ち課題は4件に。

11日
次回の申請案件と格闘。今のところ、仕上がりの良くない申請書に当たると、第一回のコミュニケーションまで一日かけても一件しか処理できない。それ以上時間がかかるものについては、記入要領を読み直してドラフトを全面的に修正してください、と申請者に差し戻すべきかもしれない。私達審査官が消耗するだけなら大した問題ではないのだが、他の申請の審査に影響することと人件費ベースで考えた行政コストの増大は馬鹿にならない。審査官の日給ベースで計算すると一人一日2万円くらい。平均12時間働くので、1667円/時間。一件あたりの処理時間はできれば3日(コストは6万円/件)以内で済ませたい。最近は極力プリントアウトはしないでPDFで済ます、FAXは使わずメールで済ます、など紙やトナーを消費しない方向で仕事しているが人件費(自分の給料)は如何ともしがたい。もっとも、これは書類審査以外の業務が無い場合の人件費だが、実際には安全対策審査官の他に、安全対策検査官と専門官(あと一応、研究調査官)も兼務しているので、それぞれの業務の割合を勘案すると審査官としての勤務時間は現状で全体の8割に達して居る。月間平均処理件数と審査官としての労働時間をベースに考えると、一件当たり8万円の審査コスト(人件費)がかかって居る。これが技術参与が対応した場合は、一件当たり12万円にはねあがる。給料ベースで考えるとそうなるのだが、コストがかかる分審査が高級なのか、というとその辺は誰が担当しても一緒。申請書の仕上がりが良ければ一件当たり数時間で済むのですが・・・誰か大臣確認申請書の代書屋でもやってくれないだろうか。申請者には行政コストという概念がないのかと不思議に思います。

12日
新しい学術調査官向けのマニュアル執筆と、ドラフトの事前審査。某臨床検査会社の現地調査の対応。ドラフトの出来はあまり良くない。この研究所には申請書の一連の事前審査プロセスを完全に公開したPDFを送付してあるのだが、個別の研究者は見て居ないのか、真剣に読んで居ないのか・・・。どの実験区画で使用するのか特定出来ないものは通せません。

13日
マニュアルのドラフトを関係者に配布、リバイスの結果待ち。月曜の時点で来て居なかった新しい申請書に目を通す。比較的きれいに纏まっており問題はすくなそう。さて、どう分配するか。
マニュアルのドラフトに対するレスポンスあり。的確なアドバイスあり、私にも下さいという人あり、以前とはやり方が違うというコメントあり、それぞれ個性的です。とは言え、以前とは違うというのは、むしろ当然で二月下旬に法が施行されてからの一カ月間とこの四カ月間では事務処理の流れもスピードも相当に変わって来て居る。従来のやり方では破綻しそうなところをどう回避するのかに腐心した我々の事情も酌んでいただきたいものだ。置かれて居る状況が変われば見方も変わるのだろうな。

ナチュラル・オカレンスにあたるケース:
DNAウイルスの場合は、大抵組換え体になります。というのは、巨大なヘルペス属ウイルス(100kbp余)の場合、BACを、B型肝炎ウイルスなど比較的コンパクトなヘパドナウイルス科(数キロbp)等の場合、プラスミドを結合したまま供試しますので、プラスミドが外来遺伝子に当たります。また、ワクシニアやアデノウイルスの場合は組換え生ワクチンに使用する場合が多いので、サイズはともかくとして組換え体にあたるケースが多いわけです。

一方、RNAウイルスやレトロウイルスの場合は、ベクターとして使用するケースの他に、ポイントミューテーションを導入して抗ウイルス剤耐性やウイルス増殖に関わる機能の責任遺伝子を同定する実験等があります。後者の場合は、ベクターに全ウイルスゲノムを導入した感染性クローンを培養細胞に導入してウイルス粒子を産生させますが、細胞から生じるウイルス粒子には外来遺伝子は含まれておらず、たとえ感染性・増殖性のあるウイルス粒子であっても”組換え体ではない”と考えます。このところナチュラル・オカレンスとして処理した案件は、HIV-Iの感染性クローン(pNL4-3あるいはpJRFL)を培養細胞に感染させてウイルス粒子を産生させ、抗ウイルス剤の効果を調べるものや、点突然変異を導入した感染性クローンを培養細胞に導入する実験が8件ほどありました。そのうち6件は同じ大学からの申請だったので、組換えDNA安全委員会がきちんと機能して居ないのではないかと心配になります。