なかなか便利な構造主義

 あれは大学2年の夏(1988年)だったか、大学の図書館でN.チョムスキーの「言語論」を手にした。前日の晩に、
テレビで大江健三郎が言語について語っていた文脈で、言語学というキーワードとともに登場したのが頭の片隅からどうしても離れなくて、
その著書を読んでみようと思い立ったのだ。チョムスキーは9.11以来、一般にも平和主義者として知られているが、
言語学の分野では非常に著名な研究者である。

チョムスキーを知らない言語学者は、メンデルを知らない遺伝学者と同じくらい胡散臭い?

 「言語論」は、分厚く門外漢の私には非常に取り付きにくい本であったが、何とか通読した。人間に共通の何らかの「構造」
がヒトが言語を理解する能力の根底にあるとする生成変形文法(最近は
生成文法
というらしい)の概念は新鮮で、今日の機械翻訳の基礎となっているらしい。当時、言語学はいわゆる「理系」
の研究分野ではないかと思ったものだ。その著書で私を捉えて離さなかったものは、
構造主義
という立場であった。構造主義自体の説明は私の能力を超えるので、どこかで
良書
を見つけてほしい。

 木村の中立説は、中立な突然変異と遺伝子頻度の機会的浮動が進化の原動力であると説き、一方、
セントラルドグマはDNAの遺伝情報が表現型に変換される背景にある機構のモデルを提供した。それぞれの仕組み、
あるいはルールはその根底にある潜在的な構造が規定し、個々の現象はそのルールすなわち構造の具現されたものであると考える。
どちらも構造主義生物学と言えないだろうか?

 統一理論や法則が成り立たない生物学の世界-多元主義的というか多神教的というか・・・の、
ローカルな規則性の抽出に活路を見出す構造主義生物学は片隅の遺伝学研究者にも光を投げかける。