あと150日

TX(つくばエクスプレス、あるいは常磐新線のことだが)開業まで、あと150日。

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思えば、平成3年の春、新人研修で谷田部の農家に泊めていただいた時、縁側に「常磐新線反対」のビラが置いてあったっけ。曰く、つくば万博、研究学園都市の開発で筑波の伝統的な良さが失われていく、と。

この伝統的な良さって、何だろう?先ほどのビラの文章を書いた人の頭の中には、バブル全盛期の狂ったような土地買収や、急に出現した人工的な学園都市の町並みのイメージがあったのかもしれない。いずれにしても、方丈記を引き合いに出すまでも無く人も町並みも時とともに移ろうのが世の常である。 40年やそこいらの自分の記憶をもとに伝統的といわれても、どうなのかなと頸をかしげるばかりであるが、 100-200年前の水戸藩政時代を念頭において、伝統的な良さ、と言ったわけでもあるまい。

昭和55年(1980年)ころに始まった研究学園都市への移転から今年で25年。初期に移転した研究所の庁舎や、そのころ集中的に作られた公務員住宅はかなり老朽化している。あと10年以内に手を打たないと、「遺跡」状態になるのは間違いない。人も、初代新つくば住民から代替わりして、つくばで生まれ育った新住民二世が社会人として活躍し始めている頃だ。ここに、TXが加わると、筑波大を卒業して東京で働きつくばに住むという新住民二世のライフスタイルが定着するのかもしれない。

現在ある試験研究機関の集中は、試験研究機関を一箇所に置けば協業が進んで効率が良いかもしれない、という空想的な発想で推進されてきたらしい。さすがに25年もたつと、現有の建物を改修するよりも、いっそもっと地価が安くて便利なところへ移転させたほうが安上がりという可能性もある。折しも、全総全国総合開発計画)が終了し、地方の地価の下落はまだ続いているところである。研究所を集中させたところで、隣の研究部との協業さえ難しい硬直しきった研究機関が多いものだから、結局何のアウトプットにもつながらなかったという総括をして、さっさと散らばらせたほうが良い。

「中央研究所の終焉」という言葉を耳にしたことは無いだろうか?拠点集中型の研究所の開発効率が必ずしも良くないという文脈で言われるのだが、農業研究の場合もこれが当てはまる。研究資金を集中して機材を重点的に整備しても、互いに融通しなければ何の役にも立たない。人を集中的に配置しても、それぞれがバラバラのテーマで研究していては集中の意味が無い。というか、問題解決型の農業研究がフィールドから離れることは条件的には不利なはずである。

私は、地域の農業試験場・研究センターを転々としてきたが、研究基本計画を策定するたびに、その研究所がその地域に無くてはいけない理由を説明できるような計画にしろと言われ続けてきた。日本の気候帯は東日本では緯度の差が気象に大きく影響するようになっているので、関東、北陸、東北、北海道の農業はそれに対応してそれぞれに分化している。一方、西日本は、九州南部と沖縄を除いて、気象条件はそれほど大きく違わない。宮崎と島根ではそこそこ違いはするが、それはともかく、産業立地論的な見方をすれば日本全国、殆どどこでもその気象に応じた農業が可能である。西日本の気象条件は地域差が比較的小さいので、このエリアでは研究対象として違いを出すのが至って難しい。翻って、中央研究所はどうだろう?そこにある必要はあるか?おそらく無い。中央研究所ならでは、という特色のある研究をしているか?それも、どうかと思う。要するに、私は中央研究所不要論者なのだ。