TX開通60日前は土曜日だったのか。写真を撮りそこなった。

 それはさておき、ナチュラルオカレンスとセルフクローニングを巡る議論のその2へ行ってみたい。

 通常のクローニング、というと私の場合まず思い浮かべるのは、DNA断片をプラスミドにつないで大腸菌に導入する、という手順で行われる一連の操作である。この点、あまり異論は無いと思う。要は遺伝子組換え技術の一種だ。この、「通常のクローニング」とナチュラルオカレンス、セルフクローニングの関係を図示するとおそらく次のようになる。あらかじめ言っておくと、これは法令上の関係ではなく、同一の製造工程で作成される組換え生物の種類の範囲を指していると考えてほしい。

1.「通常のクローニング」 > 2.ナチュラルオカレンス > 3.セルフクローニング

1.の例はたとえばpUC系の発現ベクターにクラゲの蛍光タンパク質をつないで大腸菌BL21株で発現させるというもの。2.の例はたとえばpUC系の発現ベクター赤痢菌(Shigella)の毒素遺伝子をつないで大腸菌BL21株で発現させるというものや、種類の異なるインフルエンザウイルスを共感染させて組換え型の株(assortant)を取る実験。3.の例は、大腸菌O157のベロ毒素遺伝子に突然変異を導入して毒性を強化する実験が該当する。

 ナチュラルオカレンスについては前回も触れたので簡単に述べると、自然界で発生することが知られている変異を人為的に作成することである。今回はじめて触れるセルフクローニングは、宿主−核酸供与体の範囲がいっそう狭く、その組合せは同種に限られる。お分かりのように、技術のカバーする範囲とその技術に伴うリスクは並行関係にはない。
 セルフクローニングやナチュラルオカレンスが特に安全であることにはならない。

ウイルスの分子生物学におけるリバースジェネテイックスの応用例に見られるように、遺伝子組換え技術は自然界にある超えがたい障壁を克服するのに有効なだけでなく、すでに自然界に存在するとしても著しく入手が難しい遺伝子型の生物を容易に手にするのにも非常に有効である。そういう意味では、ウイルス研究のある分野では遺伝子組換え技術を駆使して、ナチュラルオカレンスにあたる組換え生物を非常によく作っている。
 研究者の常として規制を嫌うのはありがちな傾向であるが、リスクの大きな研究が遺伝子組換えではないとしてリスク評価の俎上に上がらない事自体が潜在的なリスクであるといわざるを得ない。

 仮にナチュラルオカレンスとして遺伝子組換え生物でないとされたウイルスが実験室から漏出してバイオハザードを引き起こした場合、どこの官庁が事態の収拾と原因究明にあたるのか?ナチュラルオカレンスなので仕方が無い、という説明に国民が納得するだろうか?
 私はそのような納得はしてもらえないと思う。

 前回も触れたがカルタヘナ法の下では、著しく不適切な使用以外は何も禁止されていない。あるのはルール化されたリスクマネージメントと、それ以外の場合の規制当局の確認のみである。ナチュラルオカレンスだからといって、無限責任の状況下で研究するよりも、国が設定したリスクマネージメントに従っていますと言ったほうが気は楽になると思うのだがどうだろうか?