バイオ燃料関連の記事を森永卓郎氏が日経BPに書いている
ちょっと不審に思うところがあるので引用させていただくと、


 需要増でトウモロコシの価格が上がると、オレンジや大豆、小麦の生産農家がトウモロコシに転作し、オレンジ、大豆、小麦の供給が減って、価格が高騰するというメカニズムになっている。



 マヨネーズも原料となる植物油が大豆の価格高騰で値上がりし、その余波を受けた。

とのこと。 しかし、マヨネーズの原料は私の知る範囲では大豆油ではなく、菜種油とコーン油だ。
食用油全般の値上げがマヨネーズに波及しているのは間違いないだろうから、大豆の逼迫→植物油全体の値上げ→マヨネーズ値上なのだろう。
であるとすると、飼料用大豆も値上がりしてそうなものだがどうだろう?

しかし、小麦からトウモロコシへの転作というのは現実的にあり得るのだろうか?
19年度政府売り渡し価格が上昇しているアメリカ産小麦はハードレッドウインター(HRW)というパン用小麦だ。HRWの作付け地域のうち日本向けは主にモンタナ州ネブラスカ州コロラド州ネブラスカ五大湖の南に広がるコーンベルトの東端に重なるけれども、それ以外のHRWの産地ではこれまでのところ概ねトウモロコシは作付けしていない。
本当に小麦の生産農家がトウモロコシに転作しているのだろうか?

また以下の文章にも疑問がある。


 冷静に見てみると、値上がりしたトウモロコシ、小麦、オレンジ、大豆はすべての米国の主力輸出農産物である。しかも、大豆や小麦については遺伝子組み換え作物がかなりの割合で使われている。


 遺伝子組み換え作物は世界において食の安全という点で懸念が高まっており、日本も輸入していない。そこで、世界的に不人気な遺伝子組み換え作物を燃料の材料にして、需給をひっ迫させて価格を上げるために米国が日本に対してもバイオエタノールをすぐに売れと圧力をかけたとしか思えないのだ。

私の知る限り遺伝子組換え小麦が商業ベースで作付けされている事実はないし、ISAAAの公表データにも遺伝子組換え小麦の商業栽培の統計は乗っていない。

しかも、「日本も輸入していない。」とは、どういうことだろうか?例えば「日本モンサントが日本で安全性確認を終えた作物一覧」を見ていただきたい。また、古いデータだが平成11年の農林水産省の資料の別紙3に「遺伝子組換え作物の流通実態」が記載されている。つまり、現状では国際的には「遺伝子組換え作物とそうでないものを分別しない流通」がデフォルトになっている。

日本も10年前から遺伝子組換え作物を輸入している。確かに、わざわざ「遺伝子組換え作物」として分別流通しているものを輸入している訳ではない。しかし、コモディティーとしてのトウモロコシや大豆では遺伝子組換え作物とそうでないものを区別していない以上、栽培面積に応じた割合の遺伝子組換え作物が入っていると考えるべきだろう。 ちなみに2006年度のUSDAの統計では遺伝子組換え大豆は全大豆の作付面積の89%を占める。つまり、”普通の”米国産大豆とは遺伝子組換え大豆のことであると言って良い状況だ。
トウモロコシもややそれに近い状況で遺伝子組換えトウモロコシの作付け割合は面積ベースで61%を占める。実際の問題としては、我が国は世界最大の遺伝子組換え作物の輸入国なのだ。

遺伝子組換え作物については、以下のコンテンツを参照していただきたい。


http://www.gov-online.go.jp/pickup/shokuikuseminor/pickup_flash_play.html

なお、論理の展開はともかく、


日本政府がいまやるべきことは廃材やおがくずなどを材料としてバイオエタノールを生産する技術を1日でも早く完成させ、食べ物を燃料として燃やすなどというふざけた政策をやめさせることだ。



 この政策は、わたしたちの家計に打撃を与えるだけではない。発展途上国ではこうした穀物類が生きる糧なのだ。それを燃やして値上がりさせ、自分たちだけがもうけようという考え方は断固拒否すべきではないか。

この結論には、賛成です。



 

ちなみに、アメリカでの大豆作付けの動向は、アメリカ大豆協会のホームページで見ることができる。

http://www.asajapan.org/topics/weekly/2007_6_4.html




 好条件により2008年の大豆作付けは増大へ

 

最近の数週間は大豆の価格がコーンよりかなり活発に上がっているので、2008年の先物価格は、大豆に比べてコーン生産の経済的環境は2007年の作付け前にあった状況よりもあまりよくないことを意味する。
今期の作付けシーズンに入る時の大豆に対するコーンの純利益の優位性は、これまでにないものであった。
2008年のコーン作付けのシグナルとなる純利益は、5月24日現在の先物価格でみると、2007年に存在した価格よりも1エーカー当たり25ドル高かったが、現在の先物価格での2008年の大豆の純利益は、2007年の作付け前に一般的であった価格よりも1エーカー当たり58ドル高い。

コーンと大豆の相対的生産の経済性におけるこの変化は、米国の大豆作付け地域が今年の大きな落ち込みからいくらか回復することを示している。2008年産米国大豆の作付け増大の見通しは、記録的、あるいは記録的に近い米国の旧穀及び新穀の在庫と重なって、ブラジルの大豆作付面積増加の重要性を弱めている。

「米国の大豆作付け地域が今年の大きな落ち込みからいくらか回復することを示している。」
とあるので2006年産については大豆の作付けは減少していたと見てよいだろう。

ちなみに小麦の政府売り渡し価格の資料は以下の通り。

http://www.maff.go.jp/www/press/2006/20061122press_6b.pdf