以下、共同通信配信と思しき徳島新聞の記事。このほか、茨城新聞京都新聞にも同様の記事。
成長や内臓機能に影響か  遺伝子組み換えトウモロコシ 2007/06/14 09:31

 

 米化学品大手モンサント社による遺伝子組み換えトウモロコシの安全性に関する実験データを再解析し、 このトウモロコシを食べさせたラットは、食べさせない場合に比べ、成長や腎臓の機能などを示す数値に、 明らかな差が生じていたとする結果をフランス・カン大学などの研究チームが14日までにまとめ、米国の専門誌に発表した。

 研究チームは「データからは、このトウモロコシが安全だとは結論付けられない。哺乳類を使った新たな長期間の実験が必要だ」 としている。

 この品種は、既に日本や欧州連合(EU)、米国などで食品用や飼料用として承認されており、 日本では飼料として流通しているという。

 この結果を受け、EU欧州委員会は、欧州食品安全機関に研究内容の詳しい分析を要請。日本の食品安全委員会も情報収集を始めた。

 研究チームは「これらのデータは、肝臓と腎臓への毒性がある可能性を示している」と指摘している。
元ネタは、これ (New analysis of a rat feeding study with a genetically modified maize reveals signs of hepatorenal toxicity. Arch Environ Contam Toxicol. 2007 52, 596-602)。  何で今頃記事になったのかは、まったく謎ではあります。

それは兎も角、この論文自体もともと謎の多い論文で、例えば、

  1. 遺伝子組換え作物の毒性を扱うのに、食品のToxicologyの専門誌ではなく、Arch Environ Contam Toxicolという環境中の毒性物質についての専門誌に出しているのか? 環境中の毒性物質は濃度のコントロールが効かないなど、 試験方法においても解析方法についても農薬や食品添加物の登録の際に行なわれる良くコントロールされた毒性試験とは相当に趣が異なる。 (acknowledgementにはgreenpeace の名前があるし。)
  2. この論文では、 Gompertzモデルを成長曲線に採用して、遺伝子組換え(処理区)とそうでない飼料(対象区) で飼育したマウスの14週間の体重へのあてはめを行なっている。その際に、 処理区と対象区を独立した成長モデルにあてはめた方が良いか、 あるいは両方のデータを一緒にして一つの成長曲線にあてはめた方が良いか、のモデルの選択をAICを基準に行なっている。 著者らは、成長全般を考慮に入れた、この多変量アプローチの方が従来の検定法よりも鋭敏であると主張している。しかし、 実際はこの種のモデル選択の方が、従来から広く行なわれてきたt検定やF検定よりも検出力が高いとまでは、一般的にはいえない。    ・・・ というか、私はこの種のモデル選択は統計の世界では「検定」とは呼ばないと思っていたので、 このような使い方をしているのをみてビックリした。この手法の検出力が高いも何も、この推論方式は「推定」と言うべきで「検定」 というべきではないだろう。
  3. 成長曲線にGompertzモデルしか採用していない。 そのモデルは、他の成長モデルより本当に良いのか?一応、 6週齢のラットに当てはまりそうな他のモデルも試して見せてくれないと、納得できない。
  4. ラットの性別ごと飼料濃度はニ水準あるのだが、 飼料濃度の影響もきちんと検定して示して欲しい。自分に都合の良い結果だけつまみ食いして見せているように感じる。特に、 性別と投与量によってGMOを投与した群の体重の増減の傾向が一致していないのだから、これをdose-dependent mannerと言ってのけてはいけない。
  5. 統計手法のユーザーとしての立場で言えば、 回帰モデルの選択という手法は、もともと違いがあるという発想を補強するために使う手法であって、古典的な「検定」 とは相当に立場が違う。私の目から見ると、この手法をとっている研究者は 「なんだか良くわからないがとにかくGMと普通の作物は違うのだ」と言う前提で解析を行なっているように見える。

あんまり言うと統計の専門家に怒られそうなのでこの辺で止めておきます。

また、血液や尿の生化学的検査値から肝臓疾患や腎疾患の疑いがあるというなら、組織切片を作って病理的な視点から組織を調べて、検査値に統計学的に有意差の出た原因が生物学的には何らかの病変によるものかどうかの裏を取るまで結論を保留するのが筋です。

# 人の健康診断にたとえれば、血液検査や尿検査の値だけで、「病気です」と確定診断はしないでしょう?

世間を騒がせるのが目的ならば話は別ですが、一見して異常と見える現象があった場合は、それを裏付ける事実を捕まえるまで結論を保留するのが、まっとうな科学者の態度だと思います。

#あー、すっきりした。

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