久々に、お茶の水女子大学社会人再教育講座(LWWC)ネタ。

私はLWWCに行ってますが、受講生ですのでお間違いなく。講師ではありません。

さて、今回は化学物質の安全性情報はどう発信されているのか?その信頼性は如何?というお話。

世の中に化学物質の有害性について発信された情報は数多ありますが、表現の仕方如何では大きな誤解を与えることがあります・・・たとえばDHMO(DiHydro Mono Oxide)。今回の講義でも、このDHMOを例示して、科学的でない表現がいかに読み手の誤解を引き起こすかを例示していた。

曰くDHMOの特性は・・・

  • 経口摂取すると、腹部膨満感、頻尿、多汗、血中の電解質異常を引き起こす。
  • 呼吸器に入ると、致死的な呼吸不全を引き起こす。
  • DHMOの気体に接触すると、皮膚の糜爛を引き起こす。
  • 毎年数千人がこの物質によって死亡している。

etc.

私が補足すると、

  • 未承認の遺伝子組換え作物に多量に含まれている。
  • 有毒植物であるトリカブトの植物体の主要な構成成分である。
  • がん細胞から必ず検出される。
  • 孵化しなかった野鳥の卵にも多量に含まれる。

くらいは言っておきたい。各国政府もこの物質のことを十分に知っているが、規制するとなると産業界からも非常に強い圧力がかかるだろうからし誰も規制しようとはしない。賢明な皆様はご承知の通り、この物質の正体は水です。

という按配に、物性の記述にとどまらない情報は正確な理解を妨げることがある。

インターネット上の情報も、国際機関や各国の公的機関のファクトデータ、評価書もあれば、営利企業の宣伝や、事実を提示していない個人の見解もあるので玉石混交。原著論文も非常に特殊なケースで一般化できないものもあれば、広く引用され汎用性が高く信頼のおけるものもあるので、専門家で無い個人が評価するのは難しい。

新聞記事はセンセーショナルに事実を切り取るので、原典をよく読まないと危ないこともある。例えば、朝日新聞の報道で「4時間以上座ったままだといわゆるエコノミークラス症候群の発症リスクが二倍になるとWHOが公表。」と言う記事があったが、確かにWHOのプレスリリースにはそう書かれている。しかし、原典には続きがあって、それでも発症リスクは1/6000程度(0.1%-0.01%の間)なので危険性は低いと書かれていたとのこと。このように、マスコミの報道は危険性をことさら訴えて、人を驚かすことを目的としているようなところがあるので要注意。

このほか、危害の可能性がある化学物質の表示について国際的な表示基準としてGHS (Globally harmonized system of classification and labeling chemicals)の導入が進められつつあり、労働安全衛生法に基づく表示や、JISでもGHSのピクトグラム(絵文字)を採用するとのこと。

受講生からの質問:
 GHSは一般の化学物質には適用されるとのことですが、私たちに消費者にとって身近な医薬品、化粧品、食品添加物に適用されないのはなぜですか?

講師の回答:
 意図的に体に取り入れる化学物質については、それぞれ別の制度で表示が決められています。
GHSは単独の物質の適用するもので色々な成分が交じっているも製品の表示とは別です。

私の感想:
 医薬品による危害要因は医師がコントロールするので、消費者が見ても仕方が無い。化粧品や食品添加物は、意図的に接触したり体内に取り入れたりするもので、基本的には通常の使い方で毒性が発揮される用量にはならないように成分と使用量が予め規制されているので危害を避けるために表示するというGHSの考え方とは相容れない。
 身近に生存を脅かす危険が見当たらなくなった消費者は、嬉々として取るに足らないリスクをあげつらって喜んでいるのではないか? 大体、危険があるという表示のある食品や化粧品を使いたがる人がいるのか?
 私はドクロマークの表示された食品を食べたいとは思わない。・・・というか、この質問者は食品添加物の回の講義を受講していないか、受講していても理解していないか、理解していても、危害の危険性が低いとみなされている食品添加物とより一般的な”化学物質”との区別がついていないかのいずれかだろう。
 再教育の意味が無かったのかと若干がっかり。