ライスショックから1日過ぎて

14,15日とNHKの特集番組”ライスショック”を見た。

大潟村の大規模稲作農家さえ借金返済に四苦八苦している様子や、
集落営農の基盤整備途中で新型コンバインを3台購入した集落が取材されていた。

収益の悪化で経営が苦しいのはわかるが、で、あるとして借金を続けた農家の経営者は借金をする時点で、
その後米価が下落することを想定していなかったのだろうか。もし、設備更新や運転資金のために借金をするのであれば、
その後の事業計画に照らして返済可能かどうかを、まず考えるべきではないだろうか?と疑問に思った。また、貸し手のJAも、
どういった返済計画を想定して貸したのか?それも謎である。

また、集落の基盤整備も済まないうちにコンバインを購入した農家に至っては、
なぜそのタイミングで設備投資をしたのか全く理解できない。雪が降らない地方であれば、まず、
収穫後ー冬期間に基盤整備をして大規模区画かができて、耕作を始めてからコンバインを調達すれば良い話ではないか。雪が積もる地方であれば、
基盤整備事業は耕作期と重なるので、集落全体を一気に基盤整備するとなると、大きく収益が減る農家が出てくるのは明らかなので、
まずは耕作体系、作業分担など営農方法の調整をしてからでなければ、参画する農家から不平が出てくるだろう。にもかかわらず、
まずコンバインの更新、である。なぜ?補助金助成金の予算執行のタイミングのせいか?

いずれにしても、収益の見通しの甘い設備投資としか思えない。また、
農協を通して米を売るとはどういう事かもよく考えた方がいいだろう。JAはどこから収益を得ているか?それは農家の生産の上前だ。
農家が自ら製品を売るのであれば支払わなくても良い「上納金」をとられているのではないか?何戸の農家のために、
何人のJA職員を雇っているだろう?その人件費を誰が負担しているか考えたことはあるか?

それでも米はまだ、今なお、手厚く保護されているのだ。

食糧自給率を考える例として、NHKはなぜ米を、”米だけ”を取り上げたのか。大豆や、
小麦を作る北海道の農家はとっくに自由化の影響を受けているし、畜産農家もそうだ。それらの農家がどうしのいでいるのかも、
きちんと取り上げなければ、稲作農家だけがかわいそうな風に見える。農業経営が厳しいのは稲作に限った話ではない。

また、同じ一次産業でも水産業はとっくに企業経営が中心になっている。水産物の輸入に対する規制など皆無だし、
税制面での優遇も聞いたことがない。漁民は伝統的な農村文化の担い手ではないからどうなってもいいというのか?そうではないだろう。
企業経営が厳しいのは、水産業でも農業でも本来何ら変わりは無いはずだ。かくいう私の実家も水産業を営んでいる。
スーパーの店頭でサンマが一匹50円で売っていたりすると、よくもそれで水産業者の暮らしが成り立つものだと複雑な気持ちにさせられる。

結局、農業だけが”票田”として、手厚い保護政策がとられてきたツケがここまで農業を弱体化させてきたのではないだろうか。

私は農水省所管の独法職員だ。しかし、食糧自給率向上を目標として掲げる農水省の施策には、どうしても理解できない点がある。それは、
食料安全保障の見地から食糧自給率の向上を目指すという論理だ。

「この国の自給食料は石油でできている」のだ。私の実家は水産業を営んでいるので聞きかじっているが、
水産物の生産コストの大きな部分は燃料の”重油代”だ。農業もまた、石油なしには生産がおぼつかないことは明らかだ。従って、
食料安全保障政策として、食糧自給率向上が有効なケースは、”食料だけ”が国際的に調達できない場合であって、
なおかつ石油は必要なだけ調達できる状況のみである。

これがいかに不自然な前提条件であるかはあきらかだろう。

私は、むしろ自給率の低さが問題になるのは、日本の消費者から農産物を主体的に選ぶ選択の自由が無くなる事ではないかと思う。安全・
安心な食料を欲しがっても、国際的には誰も供給してくれないと言う事態こそ、懸念すべきではないかと。

たとえば、中国産食料の残留農薬の問題も然り。また、私は、
科学的に安全性が評価された遺伝子組換え作物が危険なものであるとは全く考えていない。しかし、
遺伝子組み換えでない大豆やトウモロコシを国際的に調達することは今でも難しいし、今後はもっと難しく、なおかつコスト高になるだろう。

例えば、消費者の選択の自由が無くなるというのは、端的に言ってそういうことだ。それが他の農産物にも及んでいくということだと思う。
食料安全保障とは、「食料の確保による安全保障」ではなく「食料の安全性を保障すること」になっていくべきではないだろうか。

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