C型肝炎訴訟の大阪高裁和解案の論点&原告団の主張は的を射ているか?

阪高裁の和解案自体は非公開なので、朝日新聞の報道からポイントを拾うと、

  • 今年3月の東京地裁判決を踏まえ、フィブリノゲン製剤の投与をめぐって法的責任が生じる期間を、
    国については87年4月〜88年6月、被告企業の田辺三菱製薬大阪市)側は85年8月〜88年6月と指摘。
  • (1)肝炎の発症患者に2200万円、感染者に1320万円の賠償を認めた同判決に沿い、
    この期間に投与を受けた人へ和解金を用意
  • (2)それ以外の原告には「訴訟追行費」の名目で計8億円を支給
  • (3)これらの総額は原告側に一括して支払い、分配は原告患者200人に任せる
  • 和解案提示にあたっての「所見」も当事者に示し、
    「全体的解決のためには原告らの全員一律一括の和解金の要求案は望ましいと考える」と指摘
  • 国・製薬会社の過失時期の認定が異なる5地裁判決を踏まえればその内容に反する要求とし、「国側の格段の譲歩がない限り、
    和解骨子案として提示しない」と説明

阪高裁としては過去の判決とのすり合わせも必要、行政上の過失の範囲を決めないと”補償”の範囲は決められない。

とはいえ、行政上の過失がなくても薬害の発生した事実を踏まえて、原告になった薬害C型肝炎患者の一律な”救済”は必要。

とはいえ、裁判所が国家賠償法を無視して、大阪高裁での裁判の過程で国の責任が明らかになった部分以外についてまで”補償”
しろとは言えず・・・。

と結構苦しい決断を迫られて、なんとか和解案を捻り出したものの、原告一律の和解金の要求は望ましいという”補償”を超えた”救済”
の部分については、和解案本文ではなく「所見」と言う形で、付帯的に加えている。私は、これは立法府に対するメッセージではないかと思う。

 



 

10/2のエントリーにも書いたが、医薬品の製造販売に対する許認可は、そのときの最高の科学的知見に基づいて行なわれる。しかし、
科学は万能ではない。C型肝炎ウイルスのように、病原体として同定されるのに時間がかかるケースもある。
血液製剤が医薬品として製造販売承認された頃に、まだ発見されていなかった病原体については、
それによって起こった薬害について行政の過失は問えない。・・・であれば、国家賠償法を根拠にした”補償”の対象にはできない。

しかし、行政に過失がなくても、事実として薬害自体は発生した。科学は万能では無いので、原理的には、
今後も薬害は発生することだろう。だが、その”救済”を”補償”と位置づけて国税を支出するにしても、”見舞金”として支出するのであれば、
何らかの法的根拠は必要だ。

それこそ、政治家の働くべき場面だ。例えばC型肝炎であれば、患者の感染が薬害であることが推定(あるいは特定)できる場合には、
要件を定めて”救済”する特措法はできないのだろうか?薬害C型肝炎は現在は発生していない。
過去の一時期においてのみ発生したのであれば薬害による患者数は有限だ。推定できれば、救済の範囲もコストも特定できる。
心ある議員は被害者のために党を超えて共闘していただきたい。

なお、私は今日の肝炎訴訟原告団のメッセージは、感情的に過ぎると思っている。彼らは、
裁判所や厚労省が現行法を無視できないことを理解するべきだ。裁判所も役所も法律に従って行動することしかできないのだから。その上で、
国会議員に対して救済のための立法措置を求めるべきだと思う(彼らとて憲法に背く立法はできないのだが)。

このまま見当違いの相手に要求を突きつけて、ずるずると和解勧告を拒否し続けると、支援の必要な患者の負担はますます増大し続ける。
早く和解したい人達と現時点では救済の対象にならない人達の間で、原告団が内部分裂してしまうかもしれないし、
それでは世論の支援は得られないだろう。

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