細菌ゲノムの全合成

あまり一般向けのお話ではありません。

Dr. C. Venterらの研究所の仕事。プレスリリースはこちら
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Mycoplasma genitalium(G37株)
というバクテリアのゲノム(582,970 bp)を、
合成DNAを組み合わせて5-7kbのDNA断片110個の再構築で作ってしまった、という研究
NCBIにVenterらが登録したシーケンスは580,076 bp)。

中間段階では72kb、144kbのサブゲノムを構築してBACクローンとして大腸菌で増幅、
最後のアセンブルYACに入れて酵母の細胞内の相同組換えを利用して作成、と言う作成手順。しかし、
最初の5-7kbの断片の構築には100-150merくらいの合成DNAを100-140個組み立てる作業があり、
そこを組織的に行うノウハウが、実はこの研究のキモかもしれない。

ちなみに100-150merの合成DNAの価格は\100/base x 150 + \30,000(精製料金)
=\45,000くらい。二本鎖なので、この2倍で\90,000で150bp。7kbpだと約46.7倍で\4,200,000。
これを110個並べるとなると、最低限の原材料費だけで4億6千2百万円要る。合成DNAも大口のディスカウントがあるのかも知れないが、
50% OFFと言われても、そう特をした気分にはならないだろう。

合成したMycoplasma genitaliumのゲノムサイズは583kbなので天然痘ウイルス
(Variola virus)の約185kbpやワクシニアウイルスの約195kbpの3倍程度だ。
すでに理論的にはこれらの大きなサイズのウイルスゲノムの合成は可能であったが、今や技術的にも可能になった。あとは、
ヒト培養細胞内にワクシニアウイルスMVA株と合成天然痘ウイルスゲノムを共感染させると、
案外簡単に天然痘ウイルス粒子の再構成ができてしまうかもしれない(こちらのオリゴDNA代は、グッとお得でたったの1.6億円)。


DNA合成装置を規制しないとバイオテロの危険が・・・という論調の報道
もあったが、繰り返しになるが、
合成DNAが入手しやすいことや、組換え技術の普及がバイオテロの引き金になる訳ではない。遺伝子組換え技術を利用して
(あるいはしなくても)、強力な病原体を開発する手段は、かなり前からあったのだから。問題は、
コストをかけて違法行為をやるかどうかという判断を誰がするか(つまり、研究熱心で勤勉なテロリストや協力者が居るかどうか)、
ということなのだから。こういうスケールの仕事の追試験は予算の制約から実質的には非常に難しい。また、
作ったものが目的通りに機能するかは、実証試験をしてみるまでは分からないのでテロリズム用のツールとしては不確実性が高い。


既にアメリカの規制当局でも”Proposed Framework for the Oversight of Dual Use Life Sciences Research: Strategies for Minimizing the Potential Misuse of Research Information”と題して潜在的なバイオ技術の悪用に関する議論されている様です

いずれ、日本の研究者コミュニティーにも何らかの波及があることだろう。

このチームは、昨年、二種類の近縁の細菌同誌の間でゲノムDNAの入れ替えに成功している。
次のターゲットは恐らく、人工合成した細菌ゲノムを異種の細菌の細胞に移植することか。

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