redFの謎

今日は面倒くさい謎解きの宿題を頂いたので、そのプロセスを記録しておく。

pIndigoBAC-5というBACベクターには、redFというORFがある。
このredFがどこから来たか、が今日の宿題。

BAC(Bacterial Artificial Chromosome)は、大腸菌F-plasmid(約100kbpほどの巨大プラスミド)
の複製機構を利用して、外来の巨大DNAをクローニングするためのベクターだ。

PubMedで安直にF-plasmid, redFというキーワードで検索しても、何も出てこない。

仕方がないので、Google Scholarで調べたけど、これもダメ。そこで、キーワードをF-factor,
redFで検索すると、pIndigoBAC-5の取説がヒットした。

それによると、pBeloBAC11由来と書いてある。
redFの部分はpBeloBAC11由来かも知れないので、pBeloBAC11のmapを探す。
mapにはredFは出ていない。が、
よく見るとCmRの上流の1831にBstZ17Iの制限サイトがある。滅多に見かけないマイナーな制限サイトだ・・・
と思って、pIndigoBAC-5のmapを見るとやはりBstZ17Iサイトがある。おそらく、
pIndigoBAC-5のredFは、pBeloBAC11由来だ。

次に、オリジナルのF-plasmidにredFが無いと、
pBeloBAC11までさかのぼれてもご先祖様が分からない。そこで、pIndigoBAC-5の塩基配列ORFを検索
BstZ17Iサイトを含む領域にあるORF(115AA)をblastPにかけて、
F-plasmidにヒットするかどうか調べた。

NCBIのAP001918には、
46866..47672のポジションにgene="resD", note="99 pct identical to
sp:REDF_ECOLI[ResD of plasmid F]というORFがあることがわかった。
やっとredFという表記が出てきた。本体はresolvaseだった。

次に、AP001918のgene="resD"の部分配列(459-807=349bp)と、pIndigoBAC-5のORF
“redF”(1642-1990=349bp)とアラインメントした。

すると100%マッチした。

従って、ベクターの起源から考えても、この部分はF-plasmidと考えて差し支えないだろう。

確認のためにpBeloBAC11のBstZ17I サイトを含む領域(1642-1989)
にあたる115AAのORFをpIndigoBAC-5のBstZ17I サイト近辺のORFとアラインメントした。

すると100%マッチした。

従って、このredFはF-plasmid→(未確認のご先祖様)
→pBeloBac11→pIndigoBAC-5という来歴があるのだろうと推定した。ただし、
F-plasmidのresolvaseは807bp, 268AAあるので、なぜ中途半端な入れ方をしたのかは現時点では不明。


ベクターを構築する際の継ぎ目にあたってるかどうかまで調べれば分かるのかも知れないが来歴が推定できたのでこれ以上調べても意味がないのと、
面倒なので止めておく。

しかし、ご先祖様であるpBeloBac11でORFと見なしていないものを、
わざわざpIndigoBAC-5ではORFとして扱い、
しかも部分配列であるにもかかわらずredFと名前まで書いてあるのは理由が分からない。
どなたかご存じでしたら教えて下さい。


論文
によってはredFを” essentilal components of the
single-copy F-factor replicon” の一つとまで書いていますが、
その論文に書いてある仮想的BACの起源の一つであるEpicentreのpCC1BACも起源はpBeloBAC11なので、
その先祖の一世代前のベクターであるpBAC108LまでさかのぼらないとredFの起源は分からない。
・・・そっから先の調査は趣味の領域だ。

趣味に走って一つだけさかのぼってみると、この論文ではBACの構成はFig.1に至極あっさり書いてあって”
The plasmid is based on a mini-F plasmid, pMBO131”とある
(また新しいご先祖様の登場だ)。しかし、redFの説明は見あたらない。
ちなみにベクターの図(Fig.1)ではCmRの下、2時の位置(redFのあたり)に継ぎ目があるが、
バックボーンのpMBO131に由来する部分なのでこの論文では分からない。少なくとももう一つ1989年の引用文献をあたらないと・・・
と言う具合に際限がないのでここらで止めておく。腹も減ったし。

いずれにしても、核酸供与体は大腸菌ということにしておこう。F-plasmid由来というのは見当が付いたことだし。実際には、
自然界ではあちこち動き回っているかも知れませんが。

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