道具へのコダワリ

先日、NHKの”プロフェッショナル 仕事の流儀”と言う番組を見ていたら、フランス料理の若手天才シェフの仕事道具として、弓鋸や剪定ばさみが紹介されていた。意外な道具を使うものだなと思った。

翻って私の仕事道具はどんなものだろうと改めて考えてみると、あまり個性的なものは使っていない。大抵使っているものは、消耗品を除くと以下の通りだ。

マイクロピペット(P10,P20,P200,P1000,8ch等)、ディスペンサー(ディストリマン)、キッチンタイマー電気泳動槽(サブマリン、スラブ)、安定化電源、ハンディーUVランプ、PCR、トランスイルミネーター、CCDカメラ、インキュベーター、クリーンベンチ、オートクレーブ、遠心機(低速、高速、微量)、振とう機、真空ポンプ、精密電子天秤、pHメーター、マグネチックスターラー、チューブミキサー、電子レンジ、ヒートブロック、恒温水槽、製氷機、冷蔵庫、冷凍庫(-20℃、-80℃)、分光光度計、蛍光光度計、DNAシーケンサー、etc.

一昔前は、シーケンスゲルのガラス板を引っぺがすのに画材店で買ってきたパレットナイフを使ったりしていたが、もうそんな必要はない。

あとはパソコンとポケコン。だいたいは研究所の備品なので、自分の道具という感覚は無い。私物を持ち込んで使っているのは、アガロースゲルを掬うのに使っているプラスチック製のフライ返し(\105)と、お気に入りのキッチンタイマーくらい。それ以外は、一生懸命実験室をセットアップしても、転勤する時にはそっくり置いていく事になる。

これらの道具の中で、唯一、20年以上使い続けているものがある。

ポケコンだ。正確には”ポータブルコンピューター”と称して売られていたので、”ポタコン”と呼ぶべきかも知れないが、シャープ製のPC-1450という製品でBASICのプログラムが動く。
学生時代(1985年頃)に買ったもので、今や緩衝液や培地の濃度計算に使うだけの、ただの関数電卓なのだが、20年以上、平日はほぼ毎日使い続けている。PC-1450はポケコンではあるが、電源投入時にはデフォルトで関数電卓として機能する。その点については賛否両論あるのだが、私は”電卓時々プログラム”という使い方をしてきたので、このスタイルが性に合っている。だからこそ使い続けて居られるのかもしれない。

このポケコンも実験台から落として金属製の本体上面の角がつぶれたり、クロロフォルムの飛沫がかかってカバーが一部溶けたりと、長年使っている内にかなりの災難に見舞われているが、いままで故障したことは一度もなく、今日もこともなげに動いていた。あと20年ほどもってくれるとありがたい。特段お気に入りというわけでも無いが、これだけ長く使い続ける仕事道具に出会うことはもう無い気がする。

私は道具に対するコダワリや愛着は余りないと思っている。しかし、もし壊れてしまっても、このポケコンだけは、なかなか捨てられないような気がする。

使えなくなったときに、何となくイライラしてしまう、というのが手になじんだ道具の証なのかもしない。

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