環境中でのLMO繁殖は確認されず。

神戸大の遺伝子組換え微生物の不法廃棄の一件の続報。毎日新聞より。
 

神戸大・遺伝子操作菌廃棄:サンプル検査で、
  菌は検出されず /兵庫

 神戸大大学院医学研究科の久野高義教授の研究室で、遺伝子を組み換えた大腸菌が未処理のまま廃棄されたとされる問題で、久野教授の研究室周辺の下水をサンプル検査した結果、遺伝子を組み換えた菌は検出されなかったことが17日、分かった。 文部科学省にも既に結果が報告されているという。

 関係者によると、神戸大の「遺伝子組換え実験安全委員会」が11日に下水を採取して、検査を進めていた。同委員会は、採取した下水をさらに詳しく分析する方針。

 ただ、下水採取時に遺伝子を組み換えた大腸菌が既に同大学の敷地外に流れている可能性もあるため、同省は大学に外部への影響の確認を迅速に行うように強く求めた。【吉川雄策】

まず、どうやって調べたのだろうか。旧指針の頃は「標準的生存能力実験法」というのが例示されていて、培養期間は7日間だった。環境水のサンプル、それも下水のサンプルを7日も培養すると、おそらくプレートがカビだらけで見るもおぞましい有様になることだろう。

研究室の流しのトラップはどうだったのだろう。
組換え大腸菌が必ず選択的に生えてくるポジティブコントロール無しの試験だと、試験の検出力そのものに疑問を持たれる。
標準的な調査方法が無いので難しい仕事だが、方法論的な瑕疵を指摘されないようにきちんと調べてほしい。

続いて、内部告発関係。神戸新聞

告発情報5カ月間放置 神戸大大学院大腸菌違法廃棄

 神戸大大学院医学研究科の久野高義教授の研究室が、遺伝子を組み換えた大腸菌などを違法に廃棄したとされる問題で、複数の学内関係者あてに昨年十月、違法行為を告発する匿名の電子メールが送られていたことが二十一日、分かった。 文部科学省から連絡を受け、大学が調査に乗り出した今年三月までの五カ月間、情報が事実上放置されていた格好で、大学の対応の遅れに批判が出そうだ。

 関係者によると、メールは医学部の教授ら複数の関係者に届いた。実験に使った大腸菌をそのまま排水口に流すなどずさんな処理実態を指摘する内容で、久野教授の指導に対する批判も書かれていたという。

 神戸大は遺伝子組み換え実験に絡む大腸菌違法廃棄などの問題について、今月四日の会見で「三月十七日に文科省から『実験で適正な処理が行われていない』という匿名の通報があったと連絡があり、内部調査を始めた」と説明。しかし、その五カ月前に告発メールが届いていたことが明らかになり、文科省からの連絡以前に、問題に気づいていた可能性も考えられる。

 元研究生の一人は「十月の段階で調査していれば、違法行為をもっと早く見つけられたはず。外部に被害が及んだ場合、大学の責任も問われかねない」と憤っている。

 神戸大は現在、学内の「遺伝子組換え実験安全委員会」が、関係者への聞き取りや研究室周辺の下水調査などを進めている。一連の問題については「結果がまとまり次第公表する」とコメント、取材には応じていない。

(4/22 08:36)

記事には、「複数の学内関係者あてに昨年十月、
違法行為を告発する匿名の電子メールが送られていたことが二十一日、分かった。」とあるが、この
分かった」と言う表現は、新聞社の「記者に分かった」
と言う意味だ。であるとすると、記者は21日までに、誰かから「複数の学内関係者あてに昨年十月、
違法行為を告発する匿名の電子メールが送られていたこと」を知り、その裏付けが「関係者」から取れたのが21日ということだろうか
(記事の裏付けを取ったとして、の話だが)。

それにしても、うーん、どうして匿名で通報したのかな。もし通報したのが教授の部下であれば、その後も、
上司と上手く折り合いが付けて、同じテーマで研究が続けられるという期待をしていたのだろうか?通報後の事態を考えると、
当分の間研究は止まるし、上司のファンドも終わるかも知れない。PDであれば、その間のキャリアは無駄になる。
それを覚悟しないで通報したとは考えにくい。

この、「元研究生」と通報者の関係もよく分からない。「憤っている」と言うからには、
違法行為に荷担してはいないのだろうが、どこの研究室の「元研究生」なのか。また、何をきっかけに「元研究生」になったのか。新聞社はなぜ、
この「元研究生」にコメントを求めたのか。この事案と無関係に大学を辞めたのであれば、この記事にコメントを載せることに意味はない。

もっとも公益通報者保護法というのはあるものの、単年度契約のPDの場合、
難癖付けられて再契約しないとも限らないし、研究室のスタッフの場合でも、事実上は上司と上手くつきあっていくのは大変難しくなるだろう。
大学や独法の研究室は中小企業並みのスケールで役割分担しているので、大企業の労働者のように配置換えするというわけにもいかないのだ。

となると、覚悟の告発だろうか。だとしたら、なぜ匿名?実名だと再就職に不利だからか?
そのあたりの事情がよく分からない。しかし、匿名の告発だと、告発の事実を確認しにくいことがままある。
誹謗中傷のデマと見分けが付きにくいのだから。

もし私が匿名の内部告発メールをもらったらどうするか?基本的に、全実験スペースを主任者が定期点検しているので、ずさんな組換え体の管理がみつかれば指導・警告の対象になる。しかし、今回の事案のようにオートクレーブはあるが使っていない、という場合は確認は非常に難しい。点検で確認できるのは、その時点での施設、実験計画、法定の拡散防止措置の整合性、職員への聞き取りによる実験の状態くらいなので、確信犯的に不法行為を働かれた場合には、とりあえず以下の手順でチェックすることになるのだろう。

  • まず、その研究室の業績と実験計画を比較、研究所に届け出られている計画と研究のアウトプットに齟齬がないかを確認。
       
     
  • ラボの関係者にそれとなく状況をきいていておく。
       
  • 安全委員会に状況報告。
       
     
  • 朝晩の抜き打ち点検。現状維持を伝える。
       
     
  • 併せて、責任者、職員、パートさんに質問。
       
     

仮に告発の事実がなかった場合、告発の内容とそれに対する調査結果を併せて安全委員会から公表。と言う段取りだろうか。
事実があった場合は、調査結果を安全委員会を通じて理事長に報告、事後の対応を仰ぐ、というところだろうか。

大学の場合、学部長など管理者にはあまり権限がないことも多いようなので、教授が実質的に全権を握ることになる。そうなると、
コントロールが効きにくいのは想像に難くない。コンプライアンスを徹底させるのはなかなか難しそうだ。

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