Attack of the killer tomatoes

6月11日、朝日新聞の記事より。


殺人トマト? 米で食中毒騒動、マックなど使用自粛

2008年6月11日19時28分

 【ニューヨーク=真鍋弘樹】米国各地で4月中旬以降、サルモネラ菌に汚染されたトマトによる食中毒が167件確認され、ハンバーガー店などの外食産業が生のトマトの使用を控える動きが広がっている。

 米食品医薬品局(FDA)によると、被害が出ているのは大型の品種で、小型のチェリートマトなどは安全が確認されている。FDAがサルモネラ菌による食中毒の恐れを警告したのがきっかけで、マクドナルドなどの大手外食チェーンが次々と該当するトマトの使用を自粛。最大手のウォルマートなど小売りチェーンも販売を控え始めている。

 サンドイッチなどに欠かせない食材だけに消費者の間では動揺が広がり、タブロイド紙のニューヨーク・ポストは1面で「殺人トマトの攻撃」という見出しで報じた。

 その昔、突然変異で凶暴化したトマトが人類を襲う、というB級映画がありました。タイトルはまさに”Attack of the killer tomatoes”。Wikipediaによれば1978年の作品だとか。今から、30年前のことです。ニューヨーク・ポストの見出しを付けた方は、1978年当時かそれ以降にこの作品を見たことがあるのかも知れません。

 食中毒情報からは思いっきり横道にそれますが、1978年の時代背景から言えば、突然変異育種法の研究が華やかな時代でした。ムギの突然変異育種の研究に関する牧野さんのまとめがこちらにありますが、文献リストを見ると1960年代中頃から1970年代後半にかけての時期に集中しています。イネでは一足早く、日本では1966年にガンマー線による突然変異育種(一種の放射線育種)でレイメイという半矮性の品種が育成されています。

 ”Attack of the killer tomatoes”というB級映画の背景には、こうした放射線の利用、放射線異育種という技術革新で生まれた新しい作物の登場あったのかもしれません。丁度、今日のメディアに対する遺伝子組換え技術のように。
 たとえば、ジュラシック・パーク(1993)バイオハザード(2002)の着想には遺伝子組換え技術の影響が見られますが、これらに前後する現実の技術革新には、日持ち性の良い遺伝子組換えトマト"FLAVR SAVR"(1994年市販化)があります。

 ちなみに、ゴジラ(1954)は突然変異+巨大化という組み合わせで作り上げられたイメージですが米国が1954年にビキニ環礁で行った水爆実験によって日本の漁船員が死の灰等で被爆した、いわゆる第5福竜丸事件の影響で、放射能の影響を発想したのだと言われています。時期的には放射線育種の隆盛よりも早いので、放射線育種の影響では無かったと考えられます(逆に、研究者がゴジラから放射線育種を発想することは・・・まぁ、無いでしょう)。一方、巨大化については、放射線育種に先行して行われていた倍数性育種の影響はあるのかも知れません。

 なお、原子力の平和利用のためにIAEAが設置されたのが1957年、その後FAOの協賛で各国で放射線育種が推奨されてきたことから、時系列で見ると”第5福竜丸事件→(ゴジラ)→ 放射線育種 → (殺人トマト)”という弱い因果関係が見て取れます。

 放射線育種の隆盛期からは30年。今日では「放射線育種で育成した品種は体に悪い」という社会運動はありません。遺伝子組換え作物の市販かからは10年ほどなので、遺伝子組換え作物もあと20年以内には特段騒がれるような物ではなくなっていることでしょう。

# まあ、今時、F1品種を悪者にして顧客を囲い込もうという悪辣な商売もあるようで。何かを貶めることでしか自らの優位性を示すことができないというのは実に気の毒です。



 さて、真面目なお話。CDCの公表した最近発生したサルモネラ菌による食中毒の情報の調査結果はこちら。

http://www.cdc.gov/salmonella/saintpaul/

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