β-メルカプトエタノールが毒物になります。

 表題の通り。7月1日から、β-メルカプトエタノールが法律上の毒物になります。

 平成20年6月20日 政令第199号 毒物及び劇物指定令の一部を改正する政令


 第一条第二十六号の九の次に次の一号を加える。

二十六の十 二― メルカプトエタノール及びこれを含有する製剤

http://www.kantei.go.jp/jp/kanpo/jun.3/ee0620t0003.html

 β-メルカプトエタノールは粗タンパクの抽出や、タンパク質の電気泳動(SDS-PAGE)には欠かせない試薬なのですが、管理が厳しくなります(私の居る研究所では、施錠できる保管庫に置くことになる)。

 毒物及び劇物指定令(昭和四十年政令第二号)、第一条では、「毒物及び劇物取締法別表第一第二十八号の規定に基づき、次に掲げる物を毒物に指定する。」とあります。ここにリストアップされると毒劇法で言う「毒物」(特定毒物ではないただの毒物)にあたります。

毒物は「毒物及び劇物取締法」(通称、毒劇法)に準拠した管理が求められますので、管理・使用にあたっては事業所の定める毒劇物危害防止規定に従う必要があります。

 近頃、あらたに毒物に追加されたということは、判定基準の基準値以上の毒性があることが確認されたということでしょう。厚労省の審議会情報などで経緯を確認してみましょう。

 ・・・ありました。平成20年2月29日、薬事・食品衛生審議会 毒物劇物部会。議事録はこちら。これによると、毒物劇物調査会の報告では「経口については劇物相当、経皮についてはウサギで毒物、モルモットで劇物、吸入についてはラットにおいて毒物の下限、皮膚と眼の刺激性は共に刺激性ありとなっています。」とのこと。

 議論の経緯は以下の通り。


○大野部会長 いかがでしょうか、ウサギの経皮毒性から毒物に相当するということです。
今の御説明にありましたように、生化学実験によく使っているものですが、特にございませんか。
では案のとおり毒物に指定するということでよろしいでしょうか。特によろしければ承認可、として報告とさせていただきます。

○大野部会長 次の「亜硝酸イソブチル」についてお願いします。

 おいおい・・・(議論はなかったの?)。

 物足りないので、パブコメについての情報をあたってみた。この手の規制の改定にはパブコメがつきものなので。

 該当するパブコメこちら(2008年5月23日募集開始、2008年6月13日終了、案件番号)。規制影響分析書にはアバウトな経緯が書かれているが、毒性の具体はちっとも分からない。β-メルカプトエタノールを使う身としては、どんな新しい事実があったのか知りたいところだが。ちなみに、パブコメの結果のとりまとめは、まだ公表されていない(6/26現在)。

 意見募集の際に規制ルール変更の根拠となった科学的な事実をはっきり示していないし、会議の資料も出てこない。「ウサギの経皮毒性から毒物に相当するということ」だけではよく分からない。PubMedでもあたらないとだめか(とりあえず、rabbit 2-mercaptoethanol toxicityでは27報あるが、それらしい最近の論文はない)。情報源が科学論文かどうかも分からないと、これ以上さがす気にはなれない。

β-メルカプトエタノールにかわる還元剤で、毒性が低くて使い勝手が良く、しかも安く入手できるものがあれば問題ないのだが、DTTは高いし、TBPは分極しないけど溶解度が低いし、どちらも普通、SDS-PAGEには使わない。試薬を変えて実験の再現性が無くなると困るので、今後もβ-メルカプトエタノールを使うことになるのだろう。経皮毒性ならこれまで通り手袋をしておけば十分だろうし。

 (原液のボトルを開けるときは、横着しないで、できるだけドラフトを使ってね。臭いから。)

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