大腸菌 Invitrogen DB3.1株に関するEUの規制
以下の情報は日本の人口の99.99%の方には、まず役立ちません。
大腸菌 Invitrogen DB3.1株はGateway systemで利用されている致死遺伝子、ccdBに耐性になるgyrA462遺伝子を持っていて、ccdB遺伝子を保有するプラスミドの増幅に使用される。
このgyrA462はもともと大腸菌のプラスミド由来であるが、Invitrogenではプロモーターと構造遺伝子を繋いだ発現カセットを作製していて、DB3.1株では、それを遺伝子工学的に大腸菌ゲノムに導入しているらしい。
作成過程は公開されていないので供与核酸が大腸菌のみなのかどうか確認のしようがない。
※ ccdBを誘導型プロモーターの下流に繋いでおけば、gyrA462でないホストでも問題ないように思うのですが。ccdBはリーキーな発現でも致死的なんでしょうかね。
Invitrogen DB3.1株の製品添付文書には次のようにある。
Information for European Customers: These cells are genetically modified and contain plasmid-derived DNA sequences. As a condition of sale, this product must only be used in accordance with all applicable local legislation and guidelines including EC Directive 90/219/EEC on the contained use of genetically modified organisms.
「DB3.1株の作成過程では遺伝子工学を用いており、プラスミド由来のDNAを保有する。販売の条件として、この製品は遺伝子組換え生物の封じ込め使用に関するEC指令90/219/EECを含む法令とガイドラインの下においてのみ使用されなければならない。」とのこと。
そこで、この"EC Directive 90/219/EEC(summary)"について調べてみた(本文はこちら)。
要は、EUではDB3.1株は原則としてLMOとして扱いなさいということ。EC指令 90/219/EECにSelf cloningの除外規定がなければ、そういうことになる(*)。調べてみた結論から言えば、EUではLMOになっている可能性が高い。
なお、日本の国内法(カルタヘナ法)では、セルフクローニングの判断は、作成過程は関係なくて、作製された生物の特性のみで考える。この場合、大腸菌の核酸(プラスミドを含む)のみを大腸菌に入れる操作で作られた組換え大腸菌は、カルタヘナ法上はLMO扱いする必要はない。
Invitrogen社日本法人の判断もそうなのだろうが、「本当に大腸菌の核酸のみ」なのかどうか、顧客の側で確認する方法がないのは著しく気持ちが悪い。さてどうしたものか。
表題は”Council Directive 90/219/EEC of 23 April 1990 on the contained use of genetically modified micro-organisms”とあり「遺伝子組換え微生物の封じ込め利用」に関する指令。目的は、人の健康と環境に対するリスクの最小化。
Article (条文)本体は23条、このほかAnnexがI. -V.まである。Article 1に目的、Article 2に用語の定義、となっており日本の法律と似た構成。
組換え生物の利用形態と組換え生物の種類によるカテゴリー分けがある。教育・研究関連については、Type A(Type B は産業利用)、ホスト・組換え生物の病原性等リスク分類についてはAnnex II でGroup I, II(I は日本で言う認定宿主ベクター系+病原性がないもの)というカテゴリーに分けられている。
上記の除外規定について調べてみると、Annex Iに次のようにあった。
B Techniques of genetic modification to be excluded from the Directive, on condition that they do not involve the use of genetically modified micro-organisms as recipient or parental organisms:
(1) mutagenesis;
(2) the construction and use of somatic animal hybridoma cells (e.g. for the production of monoclonal antibodies);
(3) cell fusion (including protoplast fusion) of cells from plants which can be produced by traditional breeding methods;
(4) self-cloning of non-pathogenic naturally occurring micro-organisms which fulfil the criteria of Group I for recipient micro-organisms.
(1) OJ No 213, 21. 7. 1982, p. 15.
例外規則の適用範囲をa. ”宿主として利用される生物”に限定、b. 非病原性(Groupe I)に限定して、”self-cloning of non-pathogenic naturally occurring micro-organisms ”は除外するとある。
セルフクローニングの除外についても人の健康へのリスクベースの判断が入っている所はEU流。科学的にセルフクローニングといえるならば何でも除外、という日本のスタンスとは明らかに違うので、日本ではセルフクローニングと判断された生物でもEUでは組換え生物と扱う可能性が大(WHOの新型インフルエンザウイルスのモックアップについては、日本ではセルフクローニングと判断されたのですが、EU各国の規制当局では別の解決をしている可能性が高いことにります)。
よく見ると、”naturally occurring”という条件が満たせなければ、除外できないと言うことになるので、人為的に遺伝子を組換えたことが明らかなDB3.1株についてはEUでは遺伝子組換え生物扱いになっている可能性があります。除外規定で情報提供が免責されるかどうかは微妙です。・・・というか多分無理。
そうなると、EU加盟国内のLMOの流通の際に必要とされるであろう情報提供については、EU加盟国の国内法で判断する必要があります。
ちょっと横道ですが、EUは隣国と地続きなので以下のような配慮が前提となっている。
”Whereas micro-organisms, if released in the environment in one Member State in the course of their contained use, may reproduce and spread, crossing national frontiers and thereby affecting other Member States;”
ヨーロッパは一蓮托生という感じがします。
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