毒劇法の政令改正で7月1日からβ-メルカプトエタノールが毒物になったことについてはこちらに書いたとおり。
 毒劇法では濃度で制限をかけている毒物、劇物から除外している物質も沢山ある。が、β-メルカプトエタノールにはなぜか、そのような規定は無い。β-メルカプトエタノールについては、経口毒性のLD50が非常に低いので濃度で規制をするのは現実的ではない、と言うほどの毒性ではない。しかし、”2−メルカプトエタノール及びこれを含有する製剤”は全て規制対象だ。

 ・・・となると、市販の制限酵素の保存用の緩衝液のように、0.04%-0.08%という低濃度で含まれている場合であっても法律上は毒物になる。普通、酵素を商っている販売代理店は、毒劇物も取り扱っているので毒劇物販売業者として手続きは済んでいるはずなので混乱は少ないと思うが、研究室等で購入した際に、受け取った職員は所属、氏名、住所などをいちいち書かされる羽目になる。ゴム印でも用意しておこうか。

 7月15日現在、試薬メーカーの対応状況は以下の通り。

 9月までは移行期間。製品ラインナップの複雑な会社はこれから対応していくのだろう。

 なお困るのが、容量の管理とマイクロチューブへの 医薬用外毒物 の記載酵素のストックが山ほどあると、こりゃぁ大変です。酵素は低温で管理しているので、使用した分だけ秤量というわけにも行かず、どうしたものか。法律上は盗難等の防止が管理の目的であって、量の管理の具体は組織に委ねられている。いっそ、研究所の規定の方を変えてしまおうか・・・。

 今回の政令改正にあたっては、公開されている審議会の議事録を見る限り、こんな感じの議論だった。

「β-メルカプトエタノール経皮毒性の基準に照らして毒物だよね。何か異論のある人?」

「・・・」

「じゃ毒物ってことでよろしく。」

 このくらいのリスク評価でも、科学的事実に基づいて誰が見ても異論のない結果であれば、それはそれでよいだろう。

 一方、”2−メルカプトエタノール及びこれを含有する製剤”は全て毒物とする、このリスクマネージメントの方法はどうなのだ?ある濃度のβ-メルカプトエタノールを使用した経皮毒性試験の結果を根拠に毒物に指定したのであれば、試験の結果から、毒性が法定の毒物としての基準を下回る濃度もまた決まるはずだ。それ以下の濃度の物質は、毒物として法律で規制する意味はないのだ。閾値を決めるのが面倒だったので、とりあえず全部毒物にしたと言うことなのだろうか?仮にそうだとすれば、ひどい手抜きだ。

 新しい規制を行う場合、規制の効果を最大限に発揮させ、なおかつ無用の混乱を引き起こさない閾値を適正に決めるのが行政の責任だ。今回の一件は、毒物の匙加減を誤ったように思えてならない。

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