昨日は、新聞社の取材に協力した。種子ビジネスの展開についてのブレインストーミングを中心に、日本の主要農作物種子法についても通り一遍のお話をした。

 主要農作物の種子については、イネ、コムギ、オオムギハダカムギ、ダイズの種子を安価に安定供給する目的の主要農作物種子法(昭和二十七年五月一日法律第百三十一号)という法律がある。実は、研究開発を生業とする農業系の独立行政法人職員では知らない人も結構多い。私も、育成事業に携わった経験がなければ、きっと知らないままだっただろう。

# 昨日は間違って昭和22年の法律と言ってしまいました。正しくは昭和27年です。昭和22年として覚えていたのは種苗法の全面改定の年でした。ごめんなさい。

 種苗法は品種の育成者の知的財産権を守るための法律。主要農作物種子法の目的は、「主要農作物の優良な種子の生産及び普及を促進するため、種子の生産についてほ場審査その他の措置を行うこと」です。法律の条文を見ていると、”都道府県に対して優良な品種の選定試験を行い、選定した品種の生産能力について農家に保証しなさい。”といっているだけのように見える。

 しかし、実際は、これを根拠法として、各自治体では生産能力の高い品種、あるいは品質の良い品種を”奨励品種”等(あるいは認定品種等ほかの呼び方もある)として生産を奨励し、安価に種子の供給を行うための種子協会等の団体(地域ごとに任意団体だったり、経済連だったり、法人だったりする)の種子増殖事業に助成金を出している。そのほか、奨励品種についてはJAが買いとる際にプレミアをつけたり、根拠法は違うか農業共済保険制度で自然災害による不作の場合の保障で厚遇される(奨励品種は買入価格が高い分減収分のマージンが大きくなる)など、様々な優遇策がとられている。これは、食料安全保障の一環と考えることもできる。

 つまり、奨励品種でない場合にどうなるかというと、農家は耕地面積の何割かを自家採取用に回さなくてはいけないので、そこでとれた生産物を売ることはできない。その上採取した種子の発芽能力は完全に自己責任だし、生産物の価格は完全に市場原理で決まるし、自然災害の多い地域では不作の際にあまり保障が得られないかもしれない、ということになる。

 その結果、主要農作物の種子については国や自治体、あるいは独立行政法人が育成した品種が普及しており、民間育成の品種が普及しにくい状況にある。民間育成の品種が性能で負けていなくても、種子の安定供給、流通のプレミア、災害時の保障などがセットで優遇される奨励品種になれなければ、普及することは難しいのだ。

 という現状をふまえると、海外の種苗メーカーが日本国内の主要農作物の種子市場に参入するのは非常に難しい様に思う。しかし、この制度は諸刃の剣で、自治体が認めない限り独立行政法人から新しい品種がリリースされても、すぐに奨励品種になるとは限らないし、その時々の自治体の予算枠を超えた数の品種はまず奨励品種にはなれない。それは、海外からの新品種の参入を防ぐのに一役買ってはいるのだが、同時に国内の民間育種の参入を妨げ、品種の交代の足かせにもなっているのだ。

 最後にその制度をどう思うか?と質問された。私は、育成者だった頃は、新しい品種の普及の妨げになりがちだったので、なくなったほうが良い制度かもしれないと思っていた。しかし、今は若干違う感想を持っている。もし、道州制導入によって国から地方へ財源や権限が委譲されるという文脈の中で、全国一律に優良品種を普及させて食糧安全保障をするという、この制度がなくなるのであれば、それには反対する。食糧安全保障は国として担うべき事業だからだ。

 もっとももう少し他にやりようは無いものか、とも思う。この制度のために品種の流動化が妨げられているように思えるからだ。

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