ちょっと前のニュースですが、天然毒による食中毒の事例です。毎日新聞より。

食中毒:巻き貝で 天草の女性、一時心肺停止 /熊本

 県は16日、天草市河浦町の女性(73)が、フグと同じ毒性分を含んだ巻き貝「キンシバイ」を食べ、食中毒症状を起こしたと発表した。一時、心肺停止状態となったが、現在は意識を回復し快方に向かっているという。

 健康危機管理課によると、女性は14日午前9時半〜10時半ごろ、知り合いの漁業夫婦が同町沖の産島近くで捕ってゆでたキンシバイ20個を譲り受け、孫の男児(5)と一緒に食べた。正午ごろ、舌のしびれや呼吸困難などの症状を起こし、病院に搬送された。孫は異常がなく、捕った夫婦も昼ごろ食べたが、影響はなかったという。

 キンシバイは、日本近海の水深10〜30メートルの砂地にすみ、まれにフグ毒と同じ「テトロドトキシン」を含む場合がある。
 流通することは少ないが、昨年7月、長崎市内の農水産物直売所でこの貝を購入した女性が食中毒症状を起こした。【門田陽介】

毎日新聞 2008年7月17日 地方版

 これに関連して、農林水産省からお知らせが出ています。
 調べてみると、昨年も似たような事例が長崎市であった模様で、厚生労働省から昨年、通知が出ています。

 巻き貝に、フグと同じ神経毒が蓄積されるケースはそれ自体は珍しいことではないのですが、巻き貝の種によっては、その程度が違っていると考えて良いでしょう。そもそもフグの毒自体がえさ(プランクトンなど)に由来していて生物濃縮されたものですから、えさになる生物に毒が含まれているのは自然なことです(参考)。

 日本近海産のフグの代表的な毒素は有名なテトロドトキシンです。
 神経細胞のナトリウムイオンチャンネルの機能阻害によって信号伝達をブロックするため麻痺が起こるとされています。しかし、フグの神経細胞のナトリウムイオンチャンネルはほかの生物のものと構造的に異なっておりテトロドトキシン耐性になっているとのことです(ソース)。

 ちなみに、厚労省の所管する食品衛生法では、有害な食品の製造販売等が規制されていますが、農業及び水産業における食品の採取業は規制対象である「営業」の範囲から外れています。

第四条 ○7 この法律で営業とは、業として、食品若しくは添加物を採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、若しくは販売すること又は器具若しくは容器包装を製造し、輸入し、若しくは販売することをいう。ただし、農業及び水産業における食品の採取業は、これを含まない。

ですので、自然界から採取した有毒生物の譲渡によって起きた食中毒については、「業」としておこなった反復的・継続的な食品の流通の結果ではないことから、食品衛生法の適用対象にならないのでしょう。
 それから、農林水産業は所管が違うということで、農水省のホームページで注意喚起したのでしょうね。
 同じ生物による食中毒でも、流通経路によって注意喚起する役所が違うというのはなんだか変な感じです。法令上の解釈で言えば齟齬はないのでしょうけど。こんな時こそ食品安全委員会の登場!ではないかと思うのですが、肝心の食品安全委員会のホームページにはこの件について何も出ていません(大量発生でもないと対応しないらしい)。

 しかし、何ですね。「農業及び水産業における食品の採取業」ってなんだか変じゃありませんか?
 山林に生えているキノコや、海で泳いでる魚はまだ食品ではないはず。販売の意図をもって採取した瞬間から食品になるのだと思うのですが。・・・なので、食品の採取業と言われると「食品」が生えていたり泳いでいたりする有様を想像してしまいます。

人気blogランキングへ←クリックしていただけますと筆者が喜びます!