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毎日新聞より。
iPS細胞がん回避 米ハーバード大チームが作製に成功
2008年9月26日10時40分
がん化する恐れをなくした万能細胞(iPS細胞)を作ることに、
米ハーバード大のコンラッド・ホッフェリンガー准教授のチームがマウスで成功した。万能細胞をつくる際に、細胞核の遺伝情報に影響を与えないウイルスを使った。25日付の米科学誌サイエンス(電子版)に発表された。
iPS細胞は、ウイルスを使って特定の遺伝子を細胞内に送り込んでつくる。チームは、
細胞内に入るが細胞核には入り込まないアデノウイルスという風邪ウイルスの一種を使って、がん化する恐れを回避した。
細胞核は遺伝情報をつかさどっている。作製した万能細胞に、がん化の兆候はないという。ただ、作製効率は従来の方法より低く、今後の課題となる。このウイルスは、iPS細胞の開発者である京都大の山中伸弥教授も安全性向上の方法の一つとして名前を挙げていた。
これまでは、レトロウイルスやレンチウイルスを使った。これらは細胞核の遺伝情報を書き換えるため、がん化などの長期的リスクが指摘されていた。iPS細胞の安全性向上の研究は世界中で加速しており、ウイルスの改良のほか、ウイルスを使わずに化合物のみで作製する方法なども試みられている。他の方式に比べ、現時点では、高い安全性の見込めるiPS細胞ができたことになる。(竹石涼子)
オリジナルの論文はこちら。Supporting materialはご家庭でも無料で見られます(・・・見ないか)。
エピゾームとして存在するアデノウイルスの方がレトロウイルスよりはガン化しにくいだろう。だが、アデノウイルスが核に入り込まないと言う見解は正しくない。以下の論文を参照。アデノウイルスベクターを利用して相同組換えで核ゲノムの狙ったところに遺伝子を導入することができる。
先に照会した産総研のヘルパー依存型アデノウイルスベクターによるES細胞の相同組換えでも、その性質を利用している。この論文のセールスポイントは、レトロウイルス以外のベクターを使って、ゲノムに挿入変異をおこさずに実際にiPS細胞を作成し、キメラマウス作成まで漕ぎ着けており、アデノウイルスで作成したiPS細胞の多能性を示したところだろう。iPS細胞の誘導の条件をこれまでと違う技術で行って、少しずつ足場を固めてきていると言う意味では一歩前進。ただし、成功確率は低いし出発材料を選ぶので、実用性はあまり高くない。
科学としては着実な進歩なのだが、技術としては使えない。記事では「他の方式に比べ、現時点では、高い安全性の見込めるiPS細胞ができたことになる。」と評価しているが、その通りだろう。この分野は日進月歩なので、発表が1年後どころか半年後でも、このクラスの雑誌には載らなかったかも知れない。技術的には、E3欠失型Ad5を使用しており、センダイウイルスベクターやヘルパー依存型アデノウイルスベクターよりも古い世代のもの(枯れた技術といえるかも)なので、宿主細胞への指向性が一つのボトルネックになってしまっているように思う。
もしVSV-Gエンベロープを被ったアデノウイルスベクターやセンダイウイルスベクターがあれば、細胞指向性の問題はほぼ解決するだろうが、感染が若干遅いためタイミングが違ってくる可能性は残る。
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