ローマ人は言った。”分割して統治せよ”
コムギのゲノムは、そのサイズが巨大なことで知られている。ヒトゲノムの5倍もあるため、全ゲノムのシーケンスは、シーケンサーの能力がかつてよりも飛躍的に発達した今日でさえ、容易な事業ではない。
今後さらにシーケンサーの能力が向上してコストが下がらない限り、コムギ・ゲノムの全塩基配列の決定は困難だろう。

全ゲノムの塩基配列の決定といっても、ゲノムの塩基配列を端から順番に決めるということは技術的にはできない。現在の技術では、全ゲノムの塩基配列をランダムに決定して計算機上で組み上げる”全ゲノムショットガン法”か、染色体を複数の領域に分割してクローン化、整列しておいてからDNAクローンごとに塩基配列を決定する”階層的ショットガン法”が採られている。
未だゲノムの全塩基配列が決められていない生物について、どちらの戦略を採るかは今後スーパー・シーケンサーの能力がいかに上がろうとも、あまり関わりはない。それは、むしろ塩基配列情報を組み上げるコンピューターの能力に関わっている問題だ。

階層的ショットガン法で塩基配列を決めるには、まず百数十 kbp以上の巨大なDNA断片をクローニングして整列化する作業がある。技術的には、やればできることはわかっている作業なのだが実際に予算を投入し、組織を率いて、その作業を完遂することは今以て困難な事業だ。しかも、クローンの整列化にかかわるコストは今後ともそれほど下がりそうにはない。

"A Giant Leap for Wheat Genome" -コムギ・ゲノムへの偉大な一歩-


アポロ11号からアームストロング船長が人類で初めて月面に降り立った際に言った言葉になぞらえた記事が、10月2日のScienceに掲載された。若干大げさな喩えではあるが、パンコムギの3B染色体の物理地図を完成させた論文を表して、そう取り上げたものだ。

この記事では、物理地図を作成する意義を次のように要約している。"Devide and conquer"・・・「分割して統治せよ」ローマ帝国が世界帝国を築く際に重宝した考え方で、問題を細かく分けてから個別に解決しなさい、とか戦闘の際に敵軍を分断してから個別に撃破しなさいと言う具合に使われる言葉だ。

巨大な染色体のシーケンスにあたってもこの考え方が当てはまる。染色体を幾つもの領域に分けて管理しながら塩基配列を決定し、組み上げていくのだ。今後、シーケンサーの能力はさらに向上し、コストは下がっていくだろう。その日に備えて、コムギ・ゲノムの研究チームは着実にクローンの整列化を進めている。そのマイルストーンとも言うべき研究が報告された。論文はこちら
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