毎日新聞より。


iPS細胞:ウイルス使わず作成、実験成功…山中教授ら


 さまざまな細胞に変化する可能性を持つ「人工多能性幹細胞」(iPS細胞)を、ウイルスを使わずに作ることに、山中伸弥・京都大教授らが、マウスの細胞を使った実験で成功した。従来は、ウイルスの一種(レトロウイルス)の使用が必要で、細胞に発がんなどの遺伝子異常をもたらす危険が指摘されてきた。ウイルスなしで作れたことで、今後iPS細胞から作った細胞を移植する際の、患者に対する安全性向上につながるとみられる。

 10日、米科学誌「サイエンス」電子版に論文が掲載される。

 iPS細胞を作るには、皮膚細胞など基になる細胞に4種類の遺伝子を導入する必要がある。
従来はこの4遺伝子をレトロウイルスの内部に組み込み、ウイルスごと細胞に注入していた。このウイルスは、細胞が元々持っている遺伝子の集まり(染色体)に入り込む。この際に細胞の遺伝子に異常が生じ、がんなどが起きる心配があった。

 山中教授と沖田圭介・京大助教らは、レトロウイルスの代わりに大腸菌などが持つ環状の遺伝子「プラスミド」を使ってiPS細胞を作ることに成功した。プラスミドは一般に染色体内に入らず、遺伝子異常を起こす心配がないとされる。

 4遺伝子のうち、細胞作成に欠かせない3遺伝子を一つのプラスミドに、作成効率を上げる1遺伝子を別のプラスミドに組み込んだ。これらをマウス胎児の皮膚細胞に4回に分けて注入すると、実験開始から25日目にiPS細胞ができた。染色体を調べ、外から遺伝子が入った形跡がないことを確認した。

 今後はヒトの細胞で同様の方法でのiPS細胞作成を目指す。山中教授は「iPS細胞を患者の治療に使うために重要なワンステップだ」と話している。【野田武】

論文はこちら
いきなり余談ですが、iPS細胞化のマーカーにはノーベル化学賞で一躍有名になったGFPの融合タンパク質を使っています。

プラスミドベクターを使用して、CAGプロモーター(サイトメガロウイルス、チキン・アクチン由来の強発現プロモーター)でOct3/4, Klf4, Sox2の3遺伝子の間を口蹄疫ウイルス2A遺伝子由来の自己開裂ペプチドで繋いだポリシストロニックなタンパクとして発現させている。
第4の遺伝子c- Mycは別のプラスミドに組み込まれている。

# この方法だと、本来の内在性の遺伝子に対してちょっぴり余計なペプチドを付けてしまうようなので、最終的な導入遺伝子の機能については検証が必要なところは面倒かも知れない。引用文献はこちら
これによると、
口蹄疫ウイルス2A遺伝子は翻訳中にリボゾームを滑らせる機能があるようなので”自己開裂ペプチド(・・・自己消化などで分解するペプチド)言い方はあまり正しくないような気がする・・・。

プラスミドベクターの場合、ウイルスベクターよりも遺伝子の導入効率は低くなりがちだが、する遺伝子を一つのプラスミド上に構築することで、全体としては遺伝子導入効率を高くすることができる。たとえば、B,Cの3種類の遺伝子を個々に発現ベクターに載せて細胞に導入する場合、最終的にA,B,Cの全てが細胞に導入される効率は、導入効率の積になる。つまり、A,B,Cの導入効率がそれぞれ10%(=0.1)の場合、つとも導入される効率は0.1x0.1x0.1=0.001=0.1%程度になる。従って、最初から一つのプラスミド上に導入したい遺伝子を全て載せておく方が効率は良い、と言う発想だ。

そのかわり、大腸菌酵母でもプラスミドの分子量が大きくなると導入効率は下がる傾向にあるので、サイズの効果による導入効率の低下と、単一のベクター上に遺伝子を集積することによる導入効率の向上のバランスの上で戦略を選択することになるだろう。

c-Mycについてはがん遺伝子ということもあり、そのうち使わずに済ませたいと考えて、分けているのかもしれない。

なお、この論文ではプラスミド導入を4回分けて行うことで、プラスミドの核ゲノムへの組込を抑えることに成功している。ウイルスでないプラスミドでも核ゲノムに挿入してしまっては発がんリスクがあるため、それを抑える技術は重要だ。論文では上手くいったケースと同様のプラスミドを最初に導入した実験で、核ゲノムへの組込が起こってしまっていたのだが、最終的には導入プロトコルを改良することで克服している。なお、プラスミドの検出にはバックボーンにプライマーを11カ所設定してPCRを行ってチェックしている。

# ・・・だが、どうしてそのあたりを改良できたのかは素人目には結構謎です。それから、導入されたプラスミドはどこへ行っちゃうんでしょうね。

カルタヘナ法との兼ね合いで言えば、細胞に感染性の組換えウイルスを使用する場合は大抵P2レベルの拡散防止措置が必要だが、プラスミドの場合はそのステップで拡散防止措置を執る必要はない。従って、学内・病院内での手続きが若干楽になるメリットはある。

いずれにしても、遺伝子導入の効率を確保しながら発がん性をおさえると言う点では、アデノウイルスを使った方法と同様、まだ効率に課題があるようです。

 

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