製造業の生産規模縮小に伴って、派遣労働者の雇用の場が失われつつある。その結果、いわゆる「派遣切り」という状況がうまれ、「派遣村」なるものが世間のの注目を集めている。

エコノミストではないので専門的なことは分からないが、この状況を招いた原因は三つあるように思う。

  1. 小泉政権下でおこなわれた労働者派遣法の改正(平成15年6月)で、製造業にまで派遣労働者の働く場が広がり、平成16年3月以降には製造業者による期間雇用から派遣労働者の間接雇用にシフトしてきたこと。
  2. 米国発の金融不安に端を発する不況で消費者の購買意欲が殺がれ、多くの製造業の生産能力が同時にだぶついたこと。
  3. セーフティーネットの不備により職をうしなった途端、住む場所も同時に失うという状況。

1.については法律改正なので厚生労働省の審議会記録などで経緯を追跡することができるはずだ(私は調べないけど)。この制度改正によって、製造業の側から見ると需給状況に応じた柔軟な雇用調整ができるようになった。逆に、労働者の側から見ると雇用の不安定化が著しく進んだ。

2.については、周知の通り。4ヶ月程度の間に急激な市場の縮小が起こった。この多くの製造業を同時に襲った不況がなければ、それぞれの製造現場での雇用調整が小刻みに起きても働き手は派遣先の事業者の間で行ったり来たりするだけなので、1.の制度をいじったデメリットが表面化することはなかったはずだ。

3.については、農村の荒廃が遠因かもしれない。かつては期間雇用は農家の冬場の出稼ぎだったのだろうが、今や帰る田舎のない労働者が少なくない。派遣先を渡り歩いていては定住できるわけもない。雇用の不安定化は、住環境をも不安定にしたのだろう。これも、2.の問題が起きなければ大量失業には発展せず、当面の住む場所さえ自分では手当てできない労働者を想定しなくても良かったはずだ。

ここでいうセーフティーネットの意味は多岐にわたる。期間雇用と派遣労働がモザイク状になった人の場合は、雇用保険の支給を受けられないことも含まれる。

しかし、小泉政権下で行われた労働者派遣法の改正が原因の一つだと指摘する有識者も見ないし、そういう論調の報道も見かけない。国民がこぞって支持した小泉政権の失敗だったと認めたくないのだろうか。かろうじて非を認めると公言したのは、私の知る限りこの方のみだ。

派遣法改正「止められず申し訳なかった」広島労働局長が謝罪

 厚生労働省広島労働局の落合淳一局長は6日、広島市中区のホテルで開かれた連合広島の旗開きであいさつし、製造現場への労働者派遣が解禁された2004年の労働者派遣法の改正について、「改正を止められず申し訳なかった」と謝罪した。

 落合局長は「もともと問題があると思っていた。市場原理主義が前面に出ていたあの時期に、誰かが職を辞してでも止められなかったということは、謝りたいと思っている」と述べた。

 集会後、落合局長は読売新聞の取材に「この時期にこういう場で、労働行政にかかわる者として、(問題に触れずに)大きい顔をして壇上からあいさつはできないと考えた」と話した。
(2009年1月7日02時28分  読売新聞)

役人が政治家の行なう法律改正を止めるの止めないの、という議論には賛否もあろう。

一方で、「自由な働き方」と称して派遣労働者を雇用の調整弁にすることを政治家も国民も今後も是と認めるのであれば、同時にセーフティーネットも備えておくべきだ。これまで認めてきた雇用調整に手のひらを反したように「派遣切り」なんてネーミングをしてみても何も変わらないのだ。失職した途端、失業保険も受給されず住む場所もなく、当座の生活費も借りられないという悲惨な状況は憲法の精神にもとる制度の欠陥だ。人は様々な事情で苦境に陥る。

本人の自己責任ということもありうるので、そういう人間を一人も出すなという無理は言わない。だが、日本は、労働者本人が雇用関係においては何等不正な手続きを行なっていないのに、突然食うにこと欠くというという状況に追い込まれるような情けない国であってほしくない。そうであってはならない。

ところで、非正規労働者については雇用の保証がないのだから、法定の最低賃金をもっと上げたらどうなのだろう。なんなら同一労働条件の正規雇用の労働者の2-3倍くらいの賃金にして、そのかわり雇用保険もなし。健康保険も国民健康保険。年金も国民年金のみで、厚生年金の事業者負担もなし。

プロ野球選手やタレントのように全部個人事業主にしてしまう。将来への保証を雇用主が行なわないのであれば、労働者が自分でなんとかしなくてはいけない。であれば、十分に貯蓄できるだけの賃金を支払うのが道理ではないか。そうなれば企業は低賃金の正規雇用をすすめたがるし、労働者の中にはハイリスク・ハイリターンの助っ人外人型非正規雇用でも良いという人もでてくるだろう。複数年契約だと自分の仕事に甘くなるので、私は日々雇用でよいとか・・・それは居ないか。

# すると自営業の人が居なくなる?

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