”煙”といえばこの曲を思い出す。Smoke gets in your eyes. 邦題では「煙が目にしみる」というのだけれど、"Smoke gets in my eyes"ではない。かといって、「煙がおまえの目にしみる」では、何だか演歌風だし。

今日のお題はこの曲とはあまり関係ないのだが”Karrikins”(カリッキンと発音するのだろうか)という植物ホルモン。なんでも”煙”から発見された物質で、植物の種子に発芽シグナルとして作用するという。

オーストラリアの研究グループによる仕事がこちら。

David C. Nelson et al., “Karrikins Discovered in Smoke Trigger Arabidopsis Seed Germination by a Mechanism Requiring Gibberellic Acid Synthesis and Light,” Plant Physiol. 149, no. 2 (February 1, 2009): 863-873, doi:10.1104/pp.108.131516. 

折しもというか、南部オーストラリアは最近有史以来最大規模の森林火災に見舞われている。数百人が落命し、生涯で築き上げてきた資産をわずか数分で失われた方々も少なくない。被災された方々には心からお見舞い申し上げる。この災厄のちょっと前にこの仕事がオーストラリアの研究グループから報告されたことは何とも奇遇だ(大学は西オーストラリアだけどね)。

アブストラクトを”超訳”するとこんな感じ。

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Karrikinsは、火事の後一斉に発芽する植物などで働くことが知られていた一種の植物ホルモンなのだが、その作用機序をこの論文で初めて明らかにした。意外なことに、というか幸運にも、この物質はアラビドプシスの発芽を促進する。従って、このシグナル分子は、被子植物では思ったより重要なものらしい。Karrikinsはアラビドプシスの休眠種子に対して、既知の植物ホルモンや構造が似たストリゴラクトン
GR-24より効果的に発芽を引き起こす。
Karrikinsと総称される物質の一つにKAR1があるのだが、その発芽促進作用は、遺伝学的多様性や休眠の深さに左右される。植物ホルモンに関する変異体の発芽試験によって、アブシジン酸でKAR1の反応は抑制され、ジベレリン生合成の能力は必要とされる。sleepy1
変異体は発芽率が低いのだが、KAR1によって部分的には回復する。これは、Karrikinsによる発芽促進が部分的にはDELLA依存性であることを示唆している。KAR1は、外来のジベレリンに対する感受性に対しては作用が弱く、種子の吸水の際に、ジベレリン合成遺伝子であるGA3ox1GA3ox2の発現を促進する。発芽に至るまでの明らかな違いはないにもかかわらず、種子の内生アブシジン酸とジベレリンのレベルはいずれも、小根出芽前のKAR1処理によってかなり影響される。暗黒下でGA3ox1の誘導は限定的に起きるものの、アラビドプシスの発芽へのKAR1の刺激は光依存性で、近赤外光で可逆的に反応する。この光要求性とジベレリン生合成の要求性の発見は、Karrikinsの作用の仕方にかかわる初めての洞察をもたらす。
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山火事の後は、それまで休眠していた植物の種子が一斉に芽吹く。現象としては古くから知られており、樹木が繁茂している状態とは違って、林床に光が差し込む様になっているので、それはそれでとても適応的である。しかし、どうやって光が差し込まない地中に埋もれた種子が火事を知るのかは長らく謎だった。

オーストラリアは南部は、古くから絶えず小規模な野火にさらされており、そこに自生する植物のライフサイクルには、火事は織り”込み済み”になっていようだ。焼け跡に新芽が一斉に芽吹くのであれば、それはまるで植物が火事を繁殖のチャンスとみなしている様にさえ思える。この論文は、火事のあとで様々な植物が一斉に芽吹く、その”仕掛け”の一端に迫るものだ。

その点、人間は火事にはめっぽう弱い。焼け出されたオーストラリアの市民にも、その土地の植物のように頑張って再生していただきたいものだ。

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