すい臓でも甘味物質受容体が発現しているらしい

マウスの膵臓インスリン分泌細胞(β細胞)では、舌と同様の甘味物質受容体が発現しているようだ。読売新聞より。

膵臓に「甘み」感じるセンサー、インスリン分泌促す働き

 マウスの膵臓(すいぞう)の細胞に、舌と同じように「甘み」を感じるセンサー(受容体)があり、血糖値を下げるインスリンの分泌を促す働きがあることを、群馬大生体調節研究所の小島至教授らのグループが突き止めた。
 8日付の米科学誌「PLoS ONE」電子版に掲載された。インスリンが十分に分泌されない糖尿病患者向けの新薬の開発にもつながる成果と期待される。
 インスリンは、膵臓の「ランゲルハンス島」にあるベータ細胞が血中のブドウ糖などを栄養素として取り込むことで分泌される。小島教授らはマウスの舌にある、甘みセンサーを構成するたんぱく質が、ベータ細胞にもあることを発見した。サッカリンなどの人工甘味料を加えたところ、インスリン分泌を促す二つの伝達物質が増えたという。
 小島教授は「受容体をさらに調べれば、糖尿病の病理研究にも道が開ける」と話す。糖尿病に詳しい相沢徹・信州大医学部教授は「新薬開発への第一歩になるのではないか。膵臓に甘み受容体があるとは科学的にも面白い」と評価する。
(2009年4月8日17時19分  読売新聞)

もう一つ、朝日新聞より。


甘味感じる細胞、膵臓にも 糖尿病治療に役立つ可能性

2009年4月8日14時4分

 
 舌にある甘みを感じる細胞(甘味受容体)が、膵臓(すいぞう)にもあることを、群馬大生体調節研究所の小島至教授と中川祐子助教の研究グループが突き止め、7日(日本時間8日)、米国の科学誌プロスワンに発表した。糖尿病治療に役立つ可能性があるという。
 膵臓にはβ細胞と呼ばれる細胞があり、糖を分解し、インスリンを分泌して体内の血糖値を調節することが分かっている。甘味受容体が膵臓にあることは、かつて一部の学者が唱えていたが、小島教授らは08年に研究を始め、マウスのβ細胞に甘味受容体と同じ塩基配列の遺伝子があることを発見した。
 舌の甘味受容体は甘みを感じる機能しかない。だがβ細胞にはインスリンを分泌する働きがあるため、受容体への刺激が分泌を促している可能性が高いと結論づけた。
 糖尿病になるとβ細胞は糖を分解せず、インスリンを分泌しにくくなる。膵臓にも大きな負担がかかる。このため食事療法で糖を制限する治療方法が一般的だ。だが、今回発見された甘味受容体に特定の化合物で刺激を与えれば、甘みを感じるだけでインスリンを分泌することが分かり、膵臓への負担が少なくてすむという。
 小島教授は「今後の研究で、β細胞の甘味受容体をうまく刺激できれば、糖尿病の新たな治療方法となる可能性がある」と期待する。
 順天堂大の藤谷与士夫准教授(代謝内分泌学)は「β細胞に甘味受容体があることは聞いたことがなく、興味深い発見だ。この受容体を刺激することを目的とした糖尿病の新しい薬の開発につながる可能性がある。ただ、人体のなかで受容体がどのような働きをしているのかは、今後の研究が待たれる」と話している。(渡辺洋介)

 ”舌にある甘みを感じる細胞(甘味受容体)が、膵臓(すいぞう)にもある”というのは、記者の誤解だろう。これ、逆を言えば、膵臓のβ細胞が舌にもある、おばかな・・・いや、画期的な発見になるのだから。受容体と細胞を混同しているし。困ったものだ。

 特定のレセプターが舌と膵臓にあった、と言うのであれば話は分かりやすいが、この要約はまずい。これが、朝日の記事を後回しにした理由。

 一方、朝日の記事では、甘味レセプターのmRNAがβ細胞で検出されたように読めるのだが、読売の記事では「甘みセンサーを構成するたんぱく質が、ベータ細胞にもあることを発見した」とある。mRNAを検出したというのと、その先に合成されるタンパク質を検出したというのでは話が違う。これは、読売の早とちりか?論文を読まないと判断できない。

 個人的には、読売の記事のポイントの高いところは、「サッカリンなどの人工甘味料を加えたところ、インスリン分泌を促す二つの伝達物質が増えたという。」というところだと思う。β細胞に糖の受容体があることを疑う専門家はおそらく居ないだろう。しかし、それが舌で発現している甘味受容体である、というところは結構意外だろう。β細胞が糖で刺激されることは既に知られていただろうが、甘味受容体に対して糖と似たような挙動を示すサッカリンでもβ細胞が刺激されるというところは興味深い。

 経口投与したサッカリンが血流に乗るのかどうか、など実用面での課題もあるだろうし、甘味受容体の舌での信号伝達と、膵臓での信号伝達ではおそらく経路が違うだろうから、そちらの解明も待たなくてはならない。そう簡単に治療に結びつく訳ではないだろう。

 しかし、新しい発見であることは間違いない。この発見は、β細胞にはこれ以外に糖センサーはないのか?とか、言い方を換えれば、このセンサーがインスリン分泌のトリガーとして必要十分なのか、という新しい課題への扉を開いたことになるのだろうか。

人気blogランキングへ←このエントリーの情報はお役に立ちましたか?

クリックしていただけると筆者が喜びます!