CPPと総称されるペプチドがある。Cell-Penetrating Peptides(細胞を貫通するペプチド)の略だ。

発見当初は、細胞膜を貫通するペプチドというのは真贋の程が疑わしいとされていたようだが、最近では細胞内にRNAを届けるための手法としても注目されている。

色々な種類があるようだが、有名どころはHIVエイズウイルス)のTATタンパク質の一部(11-12 AA)の領域。11アミノ酸残基のうち8アミノ酸までがアルギニンでできている。これを全てアルギニンに変換したアルギニン11量体にも強いCPP活性があるという。このペプチドを細胞に導入したいタンパク質のC末端に融合させておくと様々なタンパク質を細胞内に導入できる。

このCPPを利用して、山中教授がiPS細胞の誘導に必要と同定した4種類の転写因子(山中因子)タンパク質を細胞内に取り込ませてマウス胎児の体細胞からiPS細胞を誘導した論文が発表されるようだ。

iPS細胞:「遺伝子なし」で成功 「がん化」防ぐ手法−−米独チーム


 さまざまな細胞に分化できるマウスの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、遺伝子を細胞内に入れずに作る新手法を米独の研究チームが開発した。遺伝子の影響で起きうる細胞のがん化を防ぎ、治療に使える安全なiPS細胞の作成法につながる重要な成果で、世界の研究者が目指していた「遺伝子ゼロ」のiPS細胞が初めて実現した。24日、米科学誌「セル・ステムセル」で発表した。

 米スクリプス研究所のシェン・ディン准教授、独マックスプランク分子医薬研究所のハンス・シェラー教授らのチームが開発した。山中伸弥・京都大教授が開発したiPS細胞は、ウイルスを使い四つの遺伝子を細胞の核に入れて作られた。しかし、遺伝子や導入に使うウイルスが予期せぬ働きをして、細胞ががん化する恐れが高く、遺伝子やウイルスを使わない方法が模索されてきた。

 米独チームはまず、大腸菌を使って4遺伝子から、それぞれたんぱく質を作成。このたんぱく質アミノ酸の一種のアルギニンを11個つなぎ、細胞膜を透過しやすい性質を持つように改造、ウイルスを使わずにマウスの胎児の細胞内に入れた。

 その結果、たんぱく質細胞核に入り、iPS細胞ができた。心臓、肝臓、生殖細胞などへの分化も確認。四つのたんぱく質は細胞の核に入って48時間後まで存在するものの、その後は自然に消滅するため、がん化の心配が少ないという。

 たんぱく質プロテイン)の頭文字を取り、「piPS細胞」と命名。今後、同じ手法がヒト細胞でも可能かどうか、研究が続くとみられる。

【奥野敦史】

これまでのiPS細胞の誘導法と比べて、

  1. ガン化を誘導する可能性の高いレトロウイルスベクターを使っていないこと
  2. 動物細胞用の複製開始点を持たないプラスミドでも核に取り込まれる可能性が否定できないが、DNA自体を使っていないこと
など、ガン化のリスクを下げる上では良い着眼点だ。しかし、「遺伝子なし」っていう見出しはねぇ。そんなに遺伝子が嫌いなのかな。誰でも2万個くらい持っているのに。

日本の研究グループも同じ手法に挑んでいる(熊本大学富澤先生ほか)だけに、先を越されてしまったのは残念なところ。しかし、海外のグループも、まだネズミの胎児の細胞でしか実現していないので、この手法がヒトの成人の体細胞に適用できるようになるまでには、この先、まだ色々な条件検討が必要だろう。

山中因子は、転写因子なので通常、細胞質で翻訳された後は核に移行する。CPPを末端に融合した山中因子も同じように、細胞に侵入した後は普通の転写因子と同じように核に移行していることだろう。

表題の、”ちょっとヤな感じのペプチド”というのは、このCPPの性質に関連する。CPPのように細胞に侵入するペプチドがその辺に転がっていると、それに接触した体の様々な細胞に侵入してしまいそうなものだ。想像するとちょっと怖い気がする。

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