GPUコンピューティングの時代がやってくる・・・か?

長崎大学の濱田先生がゴードン・ベル賞受賞ということで、ニュースになっています。丁度、スパコン事業仕分けが行なわれた時期なので注目を集めているようです。

安価スパコン:「事業仕分け」どこ吹く風 3800万円で完成 長崎大助教ゴードン・ベル賞 

 東京・秋葉原でも売っている安価な材料を使ってスーパーコンピュータースパコン)を製作、演算速度日本一を達成した長崎大学の浜田(剛つよし)
助教(35)らが、米国電気電子学会の「ゴードン・ベル賞」を受賞した。政府の「事業仕分け」で次世代スパコンの事実上凍結方針が物議を醸しているが、受
賞は安い予算でもスパコンを作れることを示した形で、議論に一石を投じそうだ。

 同賞は、コンピューターについて世界で最も優れた性能を記録した研究者に与えられ「スパコンノーベル賞」とも呼ばれる。浜田助教は、横田理央・
ブリストル大研究員、似鳥(にたどり)啓吾・理化学研究所特別研究員との共同研究で受賞。日本の研究機関の受賞は06年の理化学研究所以来3年ぶりという快挙だ。

 浜田助教らは「スパコンは高額をかけて構築するのが主流。全く逆の発想で挑戦しよう」と、ゲーム機などに使われ、秋葉原の電気街でも売られている、コンピューターグラフィックス向け中央演算処理装置(GPU)を組み合わせたスパコン製作に挑戦した。

 「何度もあきらめかけた」というが、3年かけてGPU380基を並列に作動させることに成功。メーカーからの購入分だけでは足りず、実際に秋葉原でGPUを調達した。開発費は約3800万円。一般的には10億〜100億円ほどかかるというから、破格の安さだ。そしてこのスパコンで、毎秒158兆回
の計算ができる「演算速度日本一」を達成した。

 26日の記者会見で事業仕分けについて問われた浜田助教は「計算機資源は科学技術の生命線。スパコンをたくさん持っているかどうかは国力にもつながる」と指摘。一方「高額をかける現在のやり方がいいとは言えない。このスパコンなら、同じ金額で10〜100倍の計算機資源を得られる」と胸を張った。
【錦織祐一】

ですが、「ゴードン・ベル賞」にも色々な部門がある様子。濱田先生の受賞された部門は「コストパフォーマンス部門」なので、事業仕分けで採り上げられたような絶対性能の追求と同一視してはいけません。

私はスパコンに詳しいわけではありませんが、日ごろパソコンをいじって、なおかつスパコンを計算機資源として利用しているユーザー(Blastなどホモロジーサーチをする人なら誰でもですが)としては、昨今の議論を見ていると奇妙なすれ違いを感じます。

計算機科学の発展には、絶対性能の追求もコストパフォーマンスの追及も大切なのだということで、ともに文部科学省のファンドで、理化学研究所と一緒にすすめめられてきた経緯があるようです。これを、皮肉と見る向きもあるでしょうが、絶対性能とコストパフォーマンスは必ずしも対立する概念ではなく、それぞれの研究成果がいずれは相互に波及しあうと考えるべきでしょう。それは車の両輪なんです。

しかし、3年かけて3800万円でGPUを買い集めなくてはいけなかったというのは結構悲しいものがあります。3年あると、GPUの性能は数倍に上がってしまいますし、同じ規格の製品であれば2年で半値になります。・・・とろとろしてると、すでに組み上げたシステムのGPUと同じ規格の製品が市場で手に入らないという目にあいますが、はしりの製品を買うと調達コストが倍になるという、難しい選択を強いられます。

つまり、2-3倍のコストをかければ1年で必要な数のGPUが調達できたでしょうが、それでは「コストパフォーマンス部門」では受賞できなかったかもしれないと・・・。予算が沢山付いて、さっさとスパコンが出来上がっていたら、かえって評価が高まらなかったかも・・・。

GPUコンピューティングは分岐計算が多いのは苦手といわれているように、分野を選ぶようです。かといって汎用機をスパコン化する「汎用京速計算機」のコストパフォーマンス自体にはちょっと首をかしげるものがあります。

”国策として自力でCPUを開発する能力を維持したい、これはコストではなく投資なのだ”というのなら、それも分からなくはありません。GPUコンピューティングにしてもTOP500に出てくるスパコンにしても、インテルAMDのようなアメリカの企業が開発したチップを使ったものがほとんどで、地球シミュレーターのSX-9のように単一CPUあたりの性能を追求した独自路線のマシンはあまりありません(中国のマシンも独自路線のようです)。そういう意味では、GPUコンピューティングといえどもNVIDIAのチップを使う限り、野依先生流に言えばアメリカへの隷属ということになってしまうでしょう。

いっそ、昨年スパコン世界一になっていたIBMのRoadrunnerで使われていたCellプロセッサ(ソニー東芝IBMの共同開発)のようなものを、「開発後はゲーム機や家電にでも入れて、ばんばん売っていいから。でも売り上げの0.5%は国に返してね」といって、メーカーに資金援助した方が良いかもしれません。CPUはスケールメリットが出ないと投資が回収できませんから、GPUコンピューティングのように最初から汎用品を使うのでなければ、新規開発するCPUを”沢山売って汎用品にする”という方法しかないでしょう。それなら、パソコン用やサーバー用のCPUよりも、携帯端末組込み用のCPUの方が沢山売れますのでスケールメリットが出ます。

# IBMのBlue geneは既に組込み用のPowerPC 440ベースの製品を使っている模様。

しかも、半導体の製造技術は3年もあれば回路の集積度が4倍に上がり、逆に消費電力が下がります。CPUの設計上の耐用年数を5年と考えると、汎用品のCPUの差し替えでメンテナンスできるのであれば運用コストも下げられ、装置の寿命も延ばせます。濱田先生も計算機の台数を問題にされていますが、安くなって台数を沢山作れれば計算機資源としてはそれだけ豊になります(1台のスパコン上で処理できる計算の数には制限がありますから、これを無駄と言ってはいけません)。

どなたか、ルネサスに資金提供して携帯端末用SuperHシリーズのブラッシュアップをしてスパコンに転用するというプランを立てて見ませんかね?単一チップとしては必要以上に多機能ですが、相当省電力になるし。

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