AFLPベースの網羅的発現解析の手法が日本で開発された。HiCEP(High Coverage Expression Profiling)という。

 前回は測定器としてDNAシーケンサーを使う手法との比較を試みたが、今回は網羅的遺伝子発現解析プラットホームの標準として普及しつつあるDNAマイクロアレイと比較してみたい。

HiCEPの方が優れていると思われるおもな点を列挙する。

  1. プラットホームが普及している。また、改良のスピードが速い。
  2. ゲノム情報の揃っていない生物にも適用可能。
  3. SNPによるシグナル強度の誤差はない。
  4. 再現性が高い(らしい)
  5. cDNA情報として網羅されていない転写産物についての情報が得られる。

逆にDNAマイクロアレイの方が優れていると思われる点を列挙する。

  1. 市販のアレイと検出キットを使用する場合、他のラボのデータとも容易に比較できる。
  2. シグナルの対応する遺伝子があらかじめ分かっているので、測定したい遺伝子を決めて、その発現パターンとの対応を容易に見ることができる。
  3. シグナル強度の誤差の性質が比較的良くわかっている。
  4. 検出器のダイナミックレンジが広い。

などなど。思いつくままに書いているので取りこぼしはあるかもしれない。

以上の比較で見えてきたことは、すでにゲノム研究のデータが完備しているモデル生物には、複数のラボでデータが共有できる大規模プロジェクト向きのDNAマイクロアレイが適しており、小さなラボ単独で、モデル生物以外の生物について解析したい場合には、HiCEPが適しているといえるだろう。

 一頃よりはDNAマイクロアレイ・リーダーも技術的に成熟しており、DNAマイクロアレイ自体もcDNAよりは長めのオリゴDNAアレイが主流になりつつある。
この5年くらいで研究のプラットホームとしての完成度はずいぶんと高くなってきた。しかし、分析機器としての総合的な完成度はまだDNAシーケンサーには及ばないし、DNAマイクロアレイの市販されていない生物については、自らスポッターも買わなくてはならず、解析プラットホームの整備に必要な経費は3,000万円程度はかかる。HiCEPの場合、DNAシーケンサーもピンキリではあるが、最低700万円くらいあれば何とかなる。できれば2700万円くらいの機種であれば感度、スループット、自動化の効率とも申し分ない。しかも、DNAマイクロアレイリーダーは専用機であるのに対し、DNAシーケンサーは当然のことながらDNAシーケンスにも使える。
設備投資の効率としてはDNAシーケンサーの方が優れているかもしれない。

 実験に当たって必要な研究者の拘束時間(ベンチタイム)についての比較は、やってみないとわからない部分が多いが1st strand  cDNA合成後の反応としては、マイクロアレイはハイブリダイゼーションと洗浄(ハイブリダイゼーションの時間はベンチタイムには普通含まない)で、ほぼ1時間。HiCEPは2nd strand cDNA合成と制限酵素処理二回、アダプターライゲーション、PCR酵素反応がテンコ盛りなので拘束時間とランニングコストは結構高くなる公算が高い。積算してみないと正確な比較はできないが。