北九州市で農家の栽培したミズナから適用外農薬が検出され、出荷を自粛した件が報道された。

 事実関係は、 ニュースに詳しい。適用可能なコマツナの残留基準よりも相当に低濃度であって安全性に問題は無いし、故意の散布でもないので法律にも抵触しない。

 この件については、松永和紀さんのコメントが日経Food・Scieceの記事になっているが、なんだか歯切れが悪い。いつもは快刀乱麻のコメントで科学的でない所業を切り倒しているのが楽しみで愛読させていただいているのだが、今回は少々切っ先が鈍っているご様子。行政の度重なるアナウンスよりも一回の出荷自粛のほうが効果があるという、まさに一罰百戒の事例とも見えるが・・・。

 結局、北九州市当局が口をすっぱくして、たとえドリフトでも適用外農薬の検出があれば公表するといってきたことよりも、一回の自粛による経済的損失を伴う事例の公表のほうが具体性があって効果的なPRだったと言いたいのだろうか?

 では、適用外農薬がなぜ適用外であるのかという科学的な議論(これは単に使用実績が無いからということで薬剤の安全性とは無関係だったのだが)の不在のまま事実を公表した市当局のそもそもの姿勢や、具体的なリスクがほとんど考えられないにもかかわらず出荷を自粛した農家の態度は批判されるべきではないというのか?いくら、市が適用外農薬のドリフトがあれば公表すると事前に通告していたとはいえ、その判断にはそもそも科学的な根拠は無いではないか。
 透明性の確保も重要だが、適用外農薬の検出、即公表という行動が、松永氏の言うように”「透明性を保って、痛くもない腹を探られることのないようにしなければ」と筋を通した”というのであれば、それは違う気がする。私がそこに見るのは、行政判断の不在であり、役人の保身である。法律上問題の無い事例を示して「こんなにちゃんとやってます」
と宣伝するのは仕事をきちんとやっていることをアピールするための単なるテクニックではないのか。

 私は、今回市の農政の透明性の確保の名の下に(小額とはいえ)犠牲を払わされた農家の方に深く同情する。結局、最終的には自らの判断で出荷自粛したとはいえ、行政がプレスリリースすると言ったのであれば、それが無言の圧力になったであろうことは推測するに難くない。古くから言い習わされている一罰百戒ではあるが、
 今回もその例であると考えるならば、その考え方は生産者を馬鹿にしていると言わざるを得ない。なぜならば、それまで問題事例が多発していて、実際に問題事例を公表したというのならともかく、今回はそもそものリスクが非常に小さく違法性も認められないのだから、公表によっていったい何の効果があったと言うのだろうか。