アグロバクテリウム法で遺伝子組換え作物を開発している人には微妙なニュース

 まれなケースではあるものの、新しい知見。

Nature Biotechnology 26, 1015-1017 (2008) Published online: 31 August 2008 | doi:10.1038/nbt.1491T-DNA–mediated transfer of Agrobacterium tumefaciens chromosomal DNA into plants Bekir Ülker, Yong Li, Mario G Rosso, Elke Logemann, Imre E Somssich & Bernd Weisshaar

 アグロバクテリウム法で作成した、アラビドプシスのタグラインのT-DNA領域近傍の染色体DNAを調べてみたら、遺伝子を含むアグロバクテリウムのゲノム DNAが検出された、と言う論文。375,000個体以上の形質転換体を調べて、検出頻度は約1/250 (0.4%)、ゲノムDNAの断片長は最大18 kbp (結構大きい)。アグロバクテリウムのホスト・ストレインはC58株を使用した。


 アグロバクテリウム法でしばしば起きるベクターの挿入から見れば低頻度なので、事実上それほど問題になることは無いだろうと考えられる。
 今の日本の規制ルールでは、食品として組換え作物を開発する場合に導入遺伝子の挿入部位の両側の塩基配列をしっかり調べておくことが必須なので、仮に運悪くT-DNAの近くでアグロバクテリウムのゲノムDNAの混入が起きたとしても、わかった時点で淘汰することはできる。

 アグロバクテリウムのゲノムは4つの複製単位(レプリコンと言う。線状DNA、環状DNA、2つの大型プラスミド)からなるが、このうち線状DNAに由来する挿入配列がもっともよく見られる。

 このアグロバクテリウムのゲノムDNAの挿入が起こった機構については、T-DNAの組込の際に認識される25 bpのRB配列と似た配列(完全に同じものではない)が、ゲノム上に散在していて、その配列を介在してT-DNAと同じ機構でゲノムに組み込まれることが理由と著者らは考えている。

 これは、またT-DNAとは独立に、RB配列と似た配列を媒介したアグロバクテリウムのゲノムDNAの挿入の可能性を示唆すると著者らは書いている。

 ・・・実に嫌なところに着目している。もしあったとしても−おそらくこれも低頻度だろうけれども−
そのような現象を効率的に探し当てる方法は今のところ無いので、仮にこちらの方は起きていてもわからない。

 いずれにしてもアグロバクテリウムは健康な人に対する病原性は無いし、作成された組換え体の栄養組成は実測することが義務づけられている。
 従って、この論文で示された事実は、感染性や栄養欠損という面では、直ちに食品衛生上の危害要因にはならないと考えて良い。

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