その昔、札幌に住んでいた頃、近郊に”大麻”(おおあさ)という地名があった。原料用に麻の栽培をしていたことに因むのかと思ったら違うらしい。また、その後移り住んだ香川県善通寺市にも”大麻”(おおさ)と言う地名があった。こちらの由来はわからない。

東京にも麻布という地名もあるし、総理大臣も麻生さん。麻に因んだ人名・地名は多い。

最近、大学生が大麻取締法違反で検挙されるニュースが後を絶たない。大麻の所持は違法だ。モラルの低い学生が増えているのだろうか。それとも大麻が入手しやすくなった、と言う事情があるのか。いずれにしても困ったものだ。

工業用原料としての植物の”アサ”や七味唐辛子や小鳥のエサに入っている麻も、いわゆる大麻草も植物学的には同一種(Cannabis sativa L.)である。ちなみに、大麻取締法(以下、法という)第一条には、こう書かれている。

”この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。”

学名をカタカナで書くのは生物学の表記ルールから言って全くの邪道だが、日本の法律では本文にアルファベットは使ってはいけないのだろうか?”エル”はCarolus LinnaeusのL.なのだが、この書き方で気づくだろうか?

ちなみに他の法律を見ると、"絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令"でも、学名はカタカナ書き。カルタヘナ法の文部科学省二種省令ではちゃんとアルファベット書き、しかもイタリック。科学技術政策を所管している役所なのだから当然と言うところだろうか。

さて、に戻るが、第一条はこう続いている。

”ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。”

種子と成熟した植物体の茎葉、製品は法律で言う「大麻」ではないので直接の規制の対象にはならない。麻製品や七味唐辛子を所持していて逮捕されてはたまらないので、こういうルールになっている。また、取り扱いの資格については第二条、所持については第三条で、「大麻取扱者」でなければ”所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。”とされている。違反した場合は、違反の種類と程度によって1-10年の懲役と20万円以下の罰金。いずれも営利目的の場合の方が罪が重い。

くれぐれも、みだりに所持、栽培してはならない。

ちなみに、アサに含まれる生理活性成分はtetrahydrocannabinol(テトラヒドロカンナビノール)である。国内で工業原料として栽培されるアサ品種はこれを含まないか、含有率が極低いものが使われる。

代表的な品種は栃木県の育成した”とちぎしろ”である。この品種は九州大学との共同研究で開発されたもので、劣勢突然変異でtetrahydrocannabinolを作らなくなった個体を母本にして交雑育種で育成された。資料によれば交配は1974年、82年には品種登録しているので、実質的には6-7年で育成が完了していることになる。品種育成のスピードとしてはかなり早い方だ。もしかしたら、種子作物や野菜ほどに個体の均一性が求められないためかも知れない。

”とちぎしろ”は幻覚作用のある生理活性物質を含まないアサだが、法では恐らく、その他の大麻と同等に扱われているのではないだろうか。法第一条には政令、省令に規定する品種を除くと言う規程はないので、どのアサ品種も例外なく法の規制を受けるはずだ。

ま、有毒か無毒か見分ける簡単な方法はないし、その辺であやしげなアサが栽培される(※)ようになっては厄介なので、正当な理由で栽培したい人にとっては面倒でもこのルールで良いのだろう。

※ その辺で怪しげなケシが栽培されるというできごとは記憶に新しい。

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